米国の株価が本格上昇に転じたと見るのは早計だ 日本株は米国株よりも本当に期待できるのか?

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株式市場が一時高値から「ベアマーケット(弱気相場)入り」とされる20%下落水準まで到達したことで、FRBの姿勢が和らぐというのは、2010年代までなら十分考えられた。だが、現在ではインフレの状況がまったく異なるので、簡単には当てはまらないだろう。

また、インフレが上振れするリスクが、FRBの政策対応を決める状況は変わらないとみられる。FRBの利上げについては、すでに6・7月のFOMCまでの各回の0.5%利上げが基本路線となっている。

その後に行われる9月会合からの利上げ幅をどうするかについては、今後のインフレを中心とした経済動向次第であり、多くの「FRBメンバー」は決めていないとみられる。筆者は、4月のインフレ統計が予想よりやや高い数字となったことを受けて、FRBによる0.5%の大幅利上げが秋口まで続く可能性が高いとみている。

また、FRBによるインフレ警戒姿勢が今後大きく変わる可能性は低く、株安をうけていったん落ち着きつつある長期金利が再び上昇する可能性があると警戒している。

アメリカの実質金利は依然として低い

すでに、FRBによる引き締め政策への思惑から、株安、金利上昇、ドル高、信用スプレッド拡大が進むなど、いわゆる金融環境は一時相応に引き締まった。一方で、ブレークイーブンインフレ率(市場が予想する期待インフレ率)から算出される、10年実質金利はわずかなプラスに浮上しただけで、2018年よりも依然として低い。このため、経済を減速させてでもインフレ率を低下させたいFRBメンバーにとっては、金融環境の引き締めはまだ不十分と認識している可能性がある。

先述のとおり、確かに一部のFRB高官からは利上げ打ち止めを示唆する発言もあった。だが、こうした発言は今後発表されるインフレ指標によって変わりうるものだ。

筆者は、アメリカで今起きている4%を超える高インフレが、長期間続く可能性は低いと考えている。インフレの1つの原因となっているサプライチェーンの目詰まりは時間とともに解消に向かうとみられ、財品目の価格が継続して上昇する余地は限定的だろう。財品目の価格上昇が止まるだけで、2023年前半にかけて同国のコアインフレ率(総合インフレ率から一時的な要因の影響を除いた物価上昇率)は1%以上低下すると予想される。

だがFRBがインフレ鎮静化をはっきりと認識するにはまだ時間がかかるとみられる。よって、この過程で、株式市場はFRBの政策対応への思惑で今後も一喜一憂する可能性が高い。FRBによる引き締めと、それが引き起こしかねない景気後退(それが実現するかはともかく)への懸念はくすぶり続けるとみられる。

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