アニメ界の異才・湯浅政明氏が抱く切実な危機感 映画「犬王」が室町時代の下層の人々を描いた訳
能楽師は「ポップスター」だった
――『犬王』では、能楽の前身である猿楽の興行がまるでロックフェスのように熱狂的なものとして描かれています。現在のかしこまった「お能」のイメージとは随分異なりますね。
当時の人々にとって、能楽師は今でいうポップスターと変わらない存在だったのだと思います。中でも犬王は観阿弥と人気を争い、その後の世阿弥にも影響を与えました。
実際、『太平記』という資料には能(田楽)を見た民衆が熱狂しすぎて観客席が倒壊してしまった、という記述もあるほど人気があったようです。
興行の様子も、今とは随分様子が異なったようで、舞いのスピードは今の3倍速かったといわれています。飛んだり跳ねたりのダンス、サーカスのように棒の上に人が乗って踊ったりする雑技団のようなパフォーマンスなど、かなり派手なことをやっていたことが知られています。
それを現代のアニメとしてどう表現するかを考えたとき、正確に描こうとしたら当時の音楽がどんなものであったのかを少ない情報から探っていかなくてはならず、(現代映画のエンターテインメントの楽曲として)観客に訴える形にするのは、なかなか難しい。
では、現代人が熱狂したロックミュージックとして表現してみたら面白いんじゃないか。そう考えたわけです。
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