アニメ界の異才・湯浅政明氏が抱く切実な危機感 映画「犬王」が室町時代の下層の人々を描いた訳

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
湯浅政明氏が監督のアニメーション映画『犬王』(5月28日全国ロードショー)は、室町時代の能楽師と琵琶法師の友情がテーマだ(撮影:今井康一)
この記事の画像を見る(5枚)
日本の伝統芸能の1つ、能楽。それがまだ「猿楽能」と呼ばれていた南北朝〜室町時代を舞台にしたアニメーション映画『犬王』が、5月28日に公開される。
原作は古川日出男の小説『平家物語 犬王の巻』(河出文庫刊)。主人公の犬王は、歴史の教科書にも出てくる観阿弥・世阿弥と人気を二分した実在の能楽師だが、今ではほとんどその名を知られていない。その犬王が、友人の琵琶法師・友魚(ともな)とともに能楽師としてスターダムを駆け上がり、そして歴史から忘れ去られていく様を描いたのが本作だ。
見どころといえるのが、犬王が催す猿楽の興行の描写だ。襟を正して幽玄の世界を静かに鑑賞する現在の能楽のイメージとは異なり、作品中では現代の人気ポップスターが催すライブ・パフォーマンスかのように描かれている。
監督を務めたのが、テレビアニメ「四畳半神話大系」「映像研には手を出すな!」やアニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』『夜明け告げるルーのうた』などの作品で知られる湯浅政明氏。自由で躍動感あふれる斬新な映像表現が国内外で高い評価を得ており、アヌシー国際アニメーション映画祭のクリスタル賞(グランプリ)、日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞などの受賞実績も多い。
そんな湯浅氏に激変する市場環境の中で、同氏がアニメーション制作にかける思いを聞いた。

能楽師は「ポップスター」だった

――『犬王』では、能楽の前身である猿楽の興行がまるでロックフェスのように熱狂的なものとして描かれています。現在のかしこまった「お能」のイメージとは随分異なりますね。

当時の人々にとって、能楽師は今でいうポップスターと変わらない存在だったのだと思います。中でも犬王は観阿弥と人気を争い、その後の世阿弥にも影響を与えました。

室町時代の能楽興行を、ロックフェスのように描いた演出が見物 ©2021 “INU-OH” Film Partners

実際、『太平記』という資料には能(田楽)を見た民衆が熱狂しすぎて観客席が倒壊してしまった、という記述もあるほど人気があったようです。

興行の様子も、今とは随分様子が異なったようで、舞いのスピードは今の3倍速かったといわれています。飛んだり跳ねたりのダンス、サーカスのように棒の上に人が乗って踊ったりする雑技団のようなパフォーマンスなど、かなり派手なことをやっていたことが知られています。

それを現代のアニメとしてどう表現するかを考えたとき、正確に描こうとしたら当時の音楽がどんなものであったのかを少ない情報から探っていかなくてはならず、(現代映画のエンターテインメントの楽曲として)観客に訴える形にするのは、なかなか難しい。

では、現代人が熱狂したロックミュージックとして表現してみたら面白いんじゃないか。そう考えたわけです。

次ページ当時のアーティストの立ち位置
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事