先にさらっと書いた通り、原因は「体内にいる水痘・帯状疱疹ウイルスの活性化」だ。
名前でおわかりの人もいると思うが、多くの人が「子どもの頃に一度かかって治った」と認識している「水ぼうそう」(水痘)のウイルスが、再び暴れ出したものなのだ。
「一度かかって治った」というのが曲者で、実は駆逐したはずの水痘ウイルスは、完全に体から排除されたわけではなかった。神経の奥深く(脊髄後根神経節)に潜り込んで、数十年もの間、表に出ていく好機を窺っているのだ。
水ぼうそうは、国内の成人の9割がすでに経験済みとされている。ほとんどの大人に帯状疱疹のリスクがあることになる。
厚労省によれば、帯状疱疹は50歳以降に急増し、60代に患者数のピーク、70代に発症率のピークを迎えることが、国内外から報告されているという。加齢とともに免疫力が落ち、水痘ウイルスにとっては再始動のチャンス到来、というわけだ。
宮崎県で1997年から継続中の世界最大規模の帯状疱疹疫学調査(宮崎スタディ、患者総数11万件以上)では、80歳までに3人に1人が帯状疱疹を経験するとの推定が示された。近年は20~40代の比較的若い人たちの発症も増えているという。
水痘ウイルスに触れる機会が減少した結果…
増加のきっかけは皮肉的だ。2014年10月、満1~3歳の子どもを対象に、水ぼうそうワクチンが定期接種化された。水ぼうそうは狙い通り激減したが、一方で大人の帯状疱疹の発症率が上昇してしまった。
水ぼうそうの子どもが身近にいなくなり、大人が水痘ウイルスに触れる機会が減少したせいだ。水痘ウイルスに特化した免疫機能が鍛錬されずに衰え、帯状疱疹に出現するスキを与えた。
定期接種化の前後で20〜49歳の帯状疱疹発症率は顕著に上昇し、20代では1年間で1.27倍となった。ちょうど水ぼうそうワクチン接種対象の子どもたちの親の世代だ。国全体では1997~2017年の20年間で患者数が1.54倍になった。
ひとつだけ対抗策がある。予防接種だ。
2016年に水ぼうそう予防の「乾燥弱毒生水痘ワクチン」が、帯状疱疹の予防にも適応拡大された。さらに2020年には、サブユニットワクチン(不活化ワクチン)の「シングリックス」が認可された。いずれも50歳以上が接種対象だ。
乾燥弱毒生水痘ワクチンは、60歳以上のアメリカ人3万6716人が参加した研究で、帯状疱疹の発生率を51.3%下げる予防効果が報告された(The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE)。重症度も61.1%低下し、帯疱疹後神経痛の発生率も66.5%減少した。
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