元声優32歳彼が「マルチにハマった」同情の経緯 芝居に集中したい想いが400万円の借金を生む

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当時訪れた「聖地」の湖(本人提供)

感性の豊かさ故か、話しながら少し涙ぐむ古川さんだが、聞けば翌日にも、もうひとつの印象的な出会いがあったようだ。

「現地のお土産屋に、消息不明者を探す紙が貼ってあったんですね。その貼り紙を見てた僕に話しかけて来てくれた50代ぐらいのそこの店員の女性に、ちょっと感慨深くもなっていたので、自分がそこに来た経緯を話したんです。

すると、彼女は『つらかったんだね。本当によく頑張ってきたね』と、諭すでもなく話をひたすら聞いて。僕の人生には、そういう言葉をかけてくれる存在が今までいなかったから、本当に嬉しかったんですよ」

失踪先から戻った古川さんは、講師に謝罪して養成所に復帰。会社の仕事は相変わらずキツかったが、それまで以上に演技や芝居の道にのめり込んでいったという。

「もう一度満足いくまで頑張ってみようと思い、そこからプロを目指して本気でやり始めたという感じですね。

揉めた講師の方にもクラス公演の舞台で主役をもらい、練習中にクラスメイトが僕の演技で泣いているのを見て、完全に演技の魅力や快感にハマってしまいました。自分の人生でそれまで『誰かの心を動かす』ような経験なんてなかったので」

若手声優が悩む“預かり所属”システム

QLCに至るまでの前置きがやや長くなったが(人となりを描くうえで重要なのであえてしっかり書いたが)、ここからが本題だ。

古川さんは24歳で声優事務所の一般公募オーディションにも合格。WEB制作会社を退職し、さまざまなバイトを転々としながら、舞台の稽古を掛け持ちする生活に突入する。

しかし、声優という人気業界ならではの、歪な構造を痛感したそうだ。

「所属タレント100人弱の規模の事務所でしたが、僕はその年に合格した20人以上のうちのひとりでした。“預かり所属”というランクが下の所属で、オーディションの話すら回ってこないのに、事務所のレッスンに年間40万円ぐらい払わされるんです」

一応補足しておくと、声優は一般的に個人事業主が多く、事務所と契約を結ぶことで、オーディションをもらったり、仕事を受けたりする。その際、正所属(本所属)なら7(声優):3(事務所)ぐらいの比率でマージンが分配されるが、階級が下の預かり所属になると6(声優):4(事務所)になったりする。

ただ、そのマージンだけでは事務所の運営が成り立たず、養成所を設けて、声優志望者や預かり所属の若手声優から授業料を徴収し、なんとか事業を成立させている。華やかに見える声優業界だが、ビジネス的には「アニメ・映像制作における、下流工程」なこともあり、その台所事情は想像以上にシビアなのだ。(※なお、もちろん契約の細かい条件は事務所によって異なっている)

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