東京都「中3英語スピーキングテスト」深刻な問題 高校入試に活用するのはあまりに「危険」だ

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ただ、その前に肝心なことがあります。何か話したいことが思い浮かんだ時に、その内容を整理し、つぎにそれを言語化する(文章化する)過程(プロセス)です。これなくして、ただ単に口から出まかせに単語を連ねればよいということではありません。

思考とその結果の整理、そして、言語化することの訓練に最初から即興性を求めるのは求め過ぎというものです。まずは、即興性の制約がより少ない、「書く」という形態で、その訓練をするのが理にかなった方法です。そうした基盤ができあがったら、あとはできるだけ場数を踏むということになります。

多言語化・多文化化が急速に進む日本社会にあって、英語で話をする機会はその気になりさえすればいくらでも見つかります。また、コロナ状況下でこれだけ身近なものとなったオンライン通信を使えば、外国にいる人たちとのやりとりも実現させることができます。

問題だらけのESAT-Jは即刻中止すべし

ESAT-Jはその設計から実施に至るまで、さまざまな問題を抱えていることを述べてきました。都教育庁はESAT-Jは長い時間をかけ、検討を加えてできあがったものだと胸を張りますが、検討不足は否めません。

ここでESAT-Jの実施を強行すれば、都の英語教育だけでなく、進路指導も含めた学校教育全体に禍根を残すことになります。ましてや、問題だらけのESAT-Jを入試に利用するということになれば、進路指導を含め学校教育の現場は大混乱に陥るでしょう。

この4月に東京都教育長に就任した浜佳葉子氏のことばを引用して締めくくりたいと思います。

「大切な姿勢は」と問われた同氏は、「教育庁は教職員6万人、子ども100万人の巨大な組織。いかに一体感をもって取り組むかが大切だ。誰一人取り残さないという目標に向け、大人の事情ではなく子どもにとって何が一番良いのかを第一の判断基準にしたい」と答えています(太字は筆者)。太字部分の正論をぜひ勇気をもって実行してもらいたいと願います。

大津 由紀雄 慶應義塾大学名誉教授

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おおつゆきお / Yukio Otsu

関西大学・中京大学客員教授。日本学術会議連携会員。Ph.D.(マサチューセッツ工科大学= MIT、1981、言語学)。東京言語研究所運営委員長、日本認知科学会会長、言語科学会会長などを歴任。専門は言語の認知科学および言語教育

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