復活したマルコス一族によるフィリピンの将来 日本とアメリカ、中国の取り込みも激化

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今回の選挙でボンボン、サラ両氏にタッグ結成を働きかけたとされるアロヨ元大統領は政権当時、ブロードバンド事業をめぐる中国企業との癒着疑惑が議会で取り上げられるなど家族ぐるみで中国との深い関係が取りざたされている。

とはいえ、ボンボン氏自身は外交・安全保障分野での経験は乏しく、南シナ海問題についても具体的な対応について語ってはいない。明確なビジョンを持っているようにもみえない。父マルコス大統領やドゥテルテ氏にように強く、時に強引なリーダーシップを発揮するタイプでもない。とすれば、だれが政権内の主導権を握るのかによって政策の行方は変わってくるだろう。

親中との決めつけは早計

「ドゥテルテの麻薬戦争」で2018年にピュリッツァー賞を受賞したジャーナリストのマニー・モガト氏は、カギを握る人物として4人の女性の名前を挙げている。サラ氏、アロヨ氏、ボンボン氏の姉のアイミー上院議員、ボンボン氏の妻で弁護士のルイーズ氏だ。もちろん国防長官や外務長官にどのような人物が起用されるかによっても対外政策は左右される。

日本政府は2022年4月9日、フィリピンとの間での初の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を催した。参加したフィリピン側の両長官とも新政権ではお役御免となるはずだ。にもかかわらずこの時期に開催したのは、マルコス政権誕生と新政権におけるドゥテルテ家の影響力維持を見越して、政権交代前に外交・安全保障分野での両国関係を進めておきたかったからだろう。

マルコス新政権が「親中」だと決めつけるのは早計だ。アメリカ政府がどこまでフィリピンを重視して取り込みに力を入れるか、がポイントである。トランプ政権はフィリピンをはじめ東南アジアにまったく無関心だった。オバマ政権はピボットだ、リバランスだといいながら南シナ海における中国の岩礁埋め立てを放置した。中国を唯一の競争相手と見定めるバイデン政権は東南アジア諸国連合(ASEAN)との特別首脳会議を開催するなどそれなりに関心をもっているようだが、2022年11月の中間選挙で負ければ外交・安全保障に手が回らなくなる可能性がある。

問われるのは日本の外交力だ。フィリピンの新政権をどこまでひきつけることができるか。「親中」にさせないか。なんでもありの中国に比べて手段は限られるが、現場を預かる在フィリピンの大使館を含めた外交の総合力が試される。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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