復活したマルコス一族によるフィリピンの将来 日本とアメリカ、中国の取り込みも激化

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それでは日本にはどのような影響があるだろうか。経済や貿易面、あるいは日本政府の援助、なかでも地下鉄建設などのインフラ整備に大きな変化はないとみられる。ドゥテルテ大統領は、アメリカ嫌いを公言する一方で日本への親近感を隠さなかった。他方ボンボン氏と日本の接点はあまりない。

問題はやはり外交・安全保障政策だが、これは日本だけではなくアメリカ、中国との関係のなかで見る必要がある。アジアの地図を広げてみればフィリピンは扇の要にあたり、近年その地政学的重要性は増している。中国、フィリピンなど6カ国が領有権を争う南シナ海に面し、台湾への距離は沖縄本土からより近い。米中対立が抜き差しならぬ状況のなか、台湾有事も念頭におけば、フィリピンはまさに最前線に位置する。

アメリカとの関係も磐石ではない

フィリピンとアメリカは1951年に結ばれた相互防衛条約(MDT)により一応、同盟関係にある。ベトナム戦争ではスービックとクラークという両アメリカ軍基地が海と空の出撃拠点となった。1992年に両基地はフィリピンに返還されたが、1998年、訪問アメリカ軍地位協定(VFA)、アキノ前政権下の2014年には防衛協力強化協定(EDCA)が締結され、MDTを支える形となった。両国軍は毎年大規模な共同演習を実施している。

しかし旧宗主国であるアメリカとの関係が盤石かといえばそうとは言い切れない。

ドゥテルテ大統領は2020年2月、VFAの破棄をアメリカに通告した。アメリカ政府が前月、麻薬戦争の陣頭指揮を執ってきたデラ・ロサ元国家警察長官(現上院議員)へのビザ発給を拒否したことにドゥテルテ氏が激怒した末のことだ。その後、アメリカ政府は3300万回分のコロナワクチンを供与するなどドゥテルテ氏の機嫌を取って、なんとか破棄宣言を撤回させた。この一件でもわかるように、政権トップ次第で対外政策も安全保障環境も大きく変わる。

実際、アキノ前政権は日米の後押しを受けて、南シナ海の領有権をめぐる中国の主張は「国際法違反」としてオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴した。同裁判所が2016年7月、南シナ海ほぼ全域の領有権を主張する中国の九段線に対して「法的根拠はない」との判断を示した。にもかかわらず、就任直後のドゥテルテ大統領はフィリピン側勝訴を棚上げする形で中国に接近した。

日本のほとんどの新聞はボンボン氏を「中国寄り」と報じている。確かにドゥテルテ路線の継承を公約としているし、立候補宣言後の2021年10月、在フィリピン中国大使館を訪れて大使と親しく懇談し、ハーグ判決を「もはや役に立たない」などと発言している。地元北イロコス州に中国領事館を誘致した。

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