復活したマルコス一族によるフィリピンの将来 日本とアメリカ、中国の取り込みも激化

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フィリピンでは36年前、街角を埋め尽くした人波が21年間続いたマルコス独裁政権を葬り去り、民主主義の勝利と世界から賞賛された。その結果得られた選挙の自由によって今回、かつての権力者一家を返り咲かせた。

新政権でフィリピンはどうなるのか。ボンボン氏は選挙期間中、一度も候補者討論会に出席せず、主要メディアのインタビューを避け続けた。「ドゥテルテ政権の継承」「団結」という以外にまとまった政策を語ってこなかったため、はっきりしない点が多い。

税金未納も刑罰も訴訟もすべてチャラ

確かなことは、ボンボン氏が納付を拒否している2030億円ペソ(約5000億円)の相続税を含めて、一家が滞納している税金などがチャラになることだ。ロイター通信は滞納の総額を390億ドル(約5兆円)と報じている。

イメルダ夫人は汚職の罪で懲役11年の有罪判決を受け、控訴中だ。さらに戒厳令下で拷問を受けた被害者や身内を殺された遺族らをはじめ、公的機関も一家を相手取りさまざまな訴訟を起こしているがすべては雲散霧消となるだろう。

マルコス家の不正蓄財を調べるために設立された大統領府行政規律委員会(PCGG)や政変後に設立された人権委員会、オンブズマンといった制度も事実上廃止されるか、まったく目的を異にする組織となるだろう。トップは政治任用だからだ。

ドゥテルテ政権が進めた麻薬撲滅戦争で、多くの人が司法手続きを経ないまま警官らに殺害された。国際刑事裁判所(ICC)はこれらの事件を捜査すると宣言しているが、現大統領の娘が副大統領となる新政権がICCの捜査をフィリピン内で認めることはない。もちろん国内の捜査機関が手を付けることもなく、被害者や遺族は泣き寝入りである。

「ビルド・ビルド・ビルド」の掛け声のもとで力を入れたインフラ整備や外資規制緩和などの経済通商政策は継続され、ドゥテルテ政権ほど強硬ではないにしろ、麻薬対策の看板も掲げ続けるだろう。

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