「会社の目標が"利益"」では人は本気で頑張れない 山口周さん×中川淳さん対談(4回目)
中川:つまり、キャリア後半のほうが個人としてのビジョンを持ちやすい。
山口:そういう面があるのはたしかだと思います。あまり「ビジョンが大事だ」「個人もビジョンを持って生きなければ」と強調しすぎると、キャリア前半の激流下りをしている20代の人たちにとっては、かえって重荷になりかねない。そのあたりのさじ加減はなかなか難しいところです。
成功者には偶然を受け入れる柔軟性がある
山口:スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツという教育学者が、最終的に功成り名遂げた人々がいかにして自分のキャリアをつくってきたかを振り返って調べる研究をしているんですが、それによると、20代から「自分はこういう方向で成功したい」というパースペクティブを持って、結果的にそのとおりの成功をおさめた人は全体の2割足らずでした。8割以上の人が、「20代の頃には自分の人生がこうなるなんて想像もつかなかった」といったようなことを語っているんです。
したがって、若いときに人生のゴールを決めて、それを達成するための精密なプログラムを組み、それ以外のことは「役に立たないから」と切り捨てている人は、非常に危険なことをやっている──それがクランボルツの主張です。むしろ、成功者の多くは行き当たりばったりの面があって、よく言えば柔軟なんですね。
もちろん20代の頃に自分でやりたいことはあったかもしれませんが、やってみたらあまりうまくいかないし、その道では明らかに自分より上の人がいたりするわけです。その一方で、いろんな頼まれごとや誘いを「自分の目的とは関係ないから」と断らずに、なんとなく面白がって受け入れているうちに、思ってもみなかった世界で成功への道が開けてしまう。そういったストーリーが多いんですよ。
中川:若い頃にビジョンを持たなかったわけではなく、いったん掲げたビジョンに固執しなかったケースが多いということですね。
山口:そうなんです。そこは若い人たちに勘違いしてほしくないですね。ビジョンを持ち続けられないからといって、ビジョンが不要なわけではありません。ビジョンを持っているほうがモチベーションが上がりますし、学習も進むので、絶対にあったほうがいい。ただ、ビジョンにかたくなに執着することで、それと関係のない人との出会いや新しい体験の機会などを排除してしまうのはよくないということです。
クランボルツは、そういった出会いやチャンスを「いい偶然」と呼びました。人生は偶然によってつくられる。ただ、そのなかでいい偶然を呼び寄せることのできる人にはある傾向があると言うんですね。
世間ではそれを単に「運がいい」と言うわけですが、結果的に運がいいように見える人は、行動や思考の様式がほかの人とは明らかに違う。偶然を受け入れるだけの柔軟性があるわけです。だから20代からビジョンを持つこと自体はいいことなのですが、軟らかさを失わないほうがいいとは思いますね。
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