大企業→中小のミドル転職が成功しない本当の訳 経験豊富なベテランが転職市場を賑わせるが…
社長が予算を確保し、来年にはシステムを導入すると約束したが、その前にこのマネジャーは他社へ移っていった。
「救いようがないな、わが社は……」
大企業からやってきたマネジャーから「お手上げ」と言われると、よほどこたえるのか。希望を失ってしまう社長も多い。
「大企業の敏腕マネジャーを雇っても変わらないなら、うちの組織はもうダメだ」
とこぼす。しかし、私はまったく違う意見だ。
このIT企業大手からやってきたマネジャーと私は話したことがある。その際、「この会社のKSFは何だと思いますか?」と私は質問した。
KSFとはKey Success Factorの略で、日本語では「重要成功要因」と呼ぶ。つまりマネジメントするうえで、最も重要なファクターは何だ? という問いかけをしたのだ。「KPIマネジメント」するうえで基本的な考えなのだが、このマネジャーはあろうことか、
「それは私が考えることですか?」
と突っかかってきた。マネジメントするうえで、KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)、KSF(Key Success Factor)、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は、料理人にとっての『レシピ』のようなもの。それが「わからない」というのであれば、もはやプロとは呼べないではないか。
前述したとおり、大企業ではデジタルシフトが進み、最終目標であるKGIさえ入れれば、勝手にKSFやKPIを生成してくれるのだろう。まるで最適なレシピを考案してくれるAIシステムのように。
デジタルシフトの「副作用」
しかし便利なものを使い続けると、副作用もある。AIが最適なレシピを考案し、システムの言う通りに食材を仕入れて調理、誰もが同等の料理ができあがるようになれば、レシピを創作できない料理人も増えるだろう。
このように、優れた仕組みに恵まれると、以前のような能力開発がされなくなる。それほど能力が高くなくとも、実績を作ることができるようになったからだ。ただ、組織にとってはよくても、このせいで本人の市場価値は上がるどころか下がっていく。
「実力とは、実績と能力を掛け合わせたものです。だから、マネジメントの実績はあっても、マネジメントの能力がないのなら、実力がないと言っても過言ではないです」
私が言うと、社長の表情は明るくなった。
「ビッグデータを取り扱っているわけでもないのに、データ分析など必要ありません。マネジメントなら、エクセルだけで十分にできます」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら