デジタル化「進まぬ日本」「成功する台湾」決定的差 上から強制するのではなく「選択肢」を与える
非常時にも既存の技術を使って対応した台湾
堤:私は昨年、『デジタル・ファシズム』という新書を出したのですが、これを書いたきっかけは、社会のデジタル化が一部の人たちのビジネス論理だけで進められ、いつの間にか民主主義が侵食されてしまうことへの危機感があったからです。
警鐘を鳴らすのと同時に、私たち市民が、何が起きているかを知り、デジタル化の先にある社会の設計に当事者として参加する意識を持てれば、今よりもっと幸せな社会を作るチャンスにできるはず、という希望のメッセージもこめました。
そんな中、「デジタル民主主義」というオードリー(・タン氏)のすばらしい発想や台湾の成功例に出会い、深く感動し、創造力を大いに刺激されました。そこには、今デジタル化で社会をよい方向に前進させる道を探すすべての人々にとって、大切なヒントがたくさんあるからです。
はじめに、世界規模でテクノロジーの光と闇をはっきりと見せた、パンデミック対応の話から聞かせてください。台湾は感染拡大阻止の成功例として国際的に注目されましたが、非常事態下での移動追跡や、国民の個人データ収集の際、セキュリティーやプライバシーの問題はどうクリアしたのですか。
タン:こちらこそ、ありがとうございます。最初にお伝えしたいことは、台湾はここ数年「非常事態宣言」を出していないということです。ですからどんな対策をとるにしても、規制や予算の議会承認など、事前承認を取らなければなりません。そのため急を要する非常時には既存のもので対応せざるをえず、コロナ禍の前からある技術を使ったのです。
でも逆にこのほうが市民に説明もしやすいし、10年、20年と続いてきたシステムなら、サイバーセキュリティーやプライバシーの議論もスムーズなんですよ。技術的にも、コロナ禍で初めて発明されたものより、元からあるもののほうが、分析もずっと簡単ですし。これが1つ目です。