ロシア新司令官「シリアの虐殺者」の背筋凍る正体 魂を売り渡した残虐な男は民間人を標的にする

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米海軍分析センターのロシア軍の専門家、マイケル・コフマンも同意見だ。「ドボルニコフが率いた部隊の戦績はまだましだった」

侵攻作戦の第1段階で、ロシア軍はクリミア、ドンバス、そして北部と3方面から攻撃を開始したが、3つの作戦を統括する指揮系統はほとんど機能していなかった。

全体に目配りする戦域司令官はどこにいるのかと西側の政府関係者は必死に探したが、実戦部隊は主にモスクワからの司令で動いているようだったと、欧州の高官は匿名を条件に明かした。

「戦場で統括指揮に当たる司令官を任命した目的は明らかだ。より連携の取れた作戦行動を遂行するためだろう」と、この高官は言う。

「ただ、それが奏功するかどうかは、お手並み拝見というところだ。率直に言って、ロシア兵はその手の戦闘の訓練を受けていないし、このやり方はロシア軍のドグマ(教義)とも合わない」

シリアで実績を上げる

ドボルニコフはロシア極東のウスリースクで1961年に生まれた。10代で地元の軍学校を卒業し、その後ソ連時代の名だたる士官学校の1つ、モスクワのフルンゼ陸軍士官学校に入学。

初めて実戦を経験したのは、1999年に始まった第2次チェチェン紛争で自動化狙撃連隊を指揮したときだ。このとき彼はチェチェン共和国の首都グロズヌイが灰燼に帰すのを目の当たりにした。

その後ロシア中央軍管区の参謀長に上り詰め、2015年にプーチンのお声掛かりでシリアへの軍事介入を指揮する司令官に抜擢された。

シリア内戦はロシアの介入で潮目が変わり、崩壊寸前だったバシャル・アサド大統領率いる現政権がしぶとく息を吹き返した。

介入の初期にはロシア空軍と政権側の地上部隊の連携がうまくいかず、反政府派の実効支配地域を切り崩せなかったが、ドボルニコフが指揮した主要都市への包囲攻撃で戦況は一変した。

「介入の初期段階は失敗だったと言っていい。ロシアの激しい空爆にもかかわらず、政権側は何カ月も支配地域を拡大できなかった」と中東問題研究所の上級研究員、チャールズ・リスターは言う。

「当初ドボルニコフは古風な戦闘スタイルを強いられた。敵が近づけない遠距離からの爆撃に徹する、ほとんど中世のような戦い方だ」

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