先述したとおり、2022年内の早いタイミングで2%超までFF金利を引き上げることをFRBは目指しているとみられるが、この利上げで2023年にかけてアメリカ経済はマイナス成長まで落ち込むか。可能性は無視できないが、30%以下のリスクシナリオと判断している。
いくつか論点があるが、以下では実質FF金利(名目FF金利-インフレ期待)の観点から考えたい。過去20年以上見られないFRBによる大幅な利上げが予想されるが、現在はコアベースの消費者物価が5%を超える高インフレである。現在の人々のインフレ予想を正確に把握するのは難しいが、2022年以降金融市場で観測される期待インフレ率約2.5%を使えば、現在の実質短期金利はかなりのマイナスである。
インフレ沈静化とインフレ期待安定を最重視してスタンスを変えている中で、FRBによる利上げ幅が大きくなるのは妥当と思われる。目標とするインフレからの上振れを反映させて、政策金利を動かす「テーラールール」(経済学者のジョン・ブライアン・テーラー氏が提唱したもので、中央銀行が誘導する政策金利の適正値をマクロ経済の指標によって定める関係式)の考えがある。
2022年内での2%台への政策金利引き上げは、これまでのインフレ振れに対応した、テーラールールから大きく逸脱した利上げにはならないと位置づけられる。このため、年間で2%を超える政策金利の引き上げとなる可能性が高いが、この利上げだけではアメリカの経済成長を失速させるには至らないと予想される。
利上げ後に景気後退に至らなかったケースとは
パウエル議長が3月21日の講演でも指摘しているが、インフレ抑制のために利上げしたあとに景気後退に至らなかったケースとして、FF金利を3%から6%まで約1年で引き上げる利上げが行われた、1994年2月~1995年2月の例がある。当時、コアインフレ率は現在より安定しており、3%前後で推移していたが、インフレへの警戒から大幅な利上げが行われた。
このとき、実質FF金利は3%前後まで上昇したと試算されるが、利上げ翌年の1995年にはGDP成長率は2.7%に、1994年(4.0%)と比べて低下したが、労働市場においては失業率が上昇するには至らなかった。インフレを制御して経済成長率を安定させる、いわゆるソフトランディングとなった。約1年で実質FF金利が3%まで引き上げられる中で、景気後退には至らなかった。
現在のインフレ期待が2.5%とすれば、2.5%超の名目金利上昇となれば実質金利はわずかにプラスに転じる。今後の利上げは、1994年時ほどの実質金利水準までには至らない。実質金利の水準の観点からすれば、FRBが想定しているだろう利上げが、経済を縮小させるほど影響が大きくなる可能性は高くないだろう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら