ウクライナ侵攻による世界経済への深刻度は? 歴史的な大事件でも現時点では「限定的」か

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ウクライナ東部・ドネツク州のマリウポリ。今のところ停戦の可能性はほとんどない(写真:ロイター/アフロ)

ロシアのウクライナ侵攻から1カ月半以上が経過した。この紛争がもたらす悲惨な人的被害を伝える日々の報道は胸が痛むものばかりだし、ウクライナ東部地域の占領を目指すロシアとウクライナの軍事的な争いは、今後激化すると報じられている。大規模な難民が隣国に押し寄せるなど、広範囲な混乱が収まる状況は見通せないだろう。

一方、世界の金融市場では、この紛争がもたらす世界経済への悪影響は限定的との見方が強まっているとみられる。米欧の株式市場は4月中旬時点で、ウクライナ侵攻直後の2月末時点の水準を上回っており、ロシアとの経済関係が深い欧州の株式市場も同様にリバウンドしている。原油市場では、3月初旬に世界的な指標であるWTI原油先物価格が1バレル=120ドル超に上昇した後は、アメリカを中心とした戦略備蓄放出や各国の増産期待などで、需給逼迫懸念が和らぎ、現在は90~100ドル台で推移している。

ロシアの通貨ルーブルも、経済制裁発動を受けて一時は大きく下落したが、3月中旬から上昇に転じ、ほぼウクライナ侵攻前と同水準まで戻った。ロシア中央銀行による大幅利上げと資本規制の徹底で、ルーブル安は制御された。天然ガス供給をロシアに頼るドイツ、そして中国との貿易関係が続き、ロシアの外貨収入を支えていると推察される。

ロシアのウクライナ侵攻による影響は?

筆者は、中央銀行のドル、ユーロなどの外貨準備利用停止でルーブル下落が簡単には止まらず、ロシア当局は対応するのは難しいと考えていた。だが、恥ずかしながらこの見立ては現時点で外れている。戦時対応として経済・金融市場に強い統制が敷かれ、外貨獲得手段になるエネルギー資源の輸出によって、持ちこたえる時間的な余裕があるとみられる。

軍事大国であるロシアが、国際法抵触とみなされる隣国の領土を侵攻することによって、多大な人的被害が発生。さらに、ロシアが核保有国であることで、世界の安全保障の枠組みすら揺るがすリスクが意識されている。これらの事実から、政治・安全保障・外交の側面では、今回のウクライナ紛争は歴史的な大事件であることは、言うまでもない。

一方、経済的には、ロシアはエネルギー分野での存在感は大きいが、同国経済の世界シェアは大きくないので、世界経済への影響は大事にはならない可能性がある。この意味で、安全保障・軍事・外交の側面で今回の紛争は歴史的な大事件であるが、経済的な側面では世界的な影響は限定されるというアンバランスがある。

世界銀行はロシアの経済成長率が2022年に11.2%縮小するとの予想を発表したが、世界のGDP(国内総生産)に占める割合は約2%であり、かけ算をすれば、世界GDPの0.2%を押し下げるにとどまる。また、貿易を通じた波及効果を含めても、これ以上経済制裁が強化されない限り、世界経済全体の成長への影響は決定的に大きくならないと評価される。こうした認識を背景に、金融市場が落ち着きを取り戻したと言えるだろう。

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