米国はFRBの急激な利上げで景気後退になるのか 日銀は円安進行にどう対応するのか?

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もちろん、1994年時と現在は異なる点も多い。2023年のアメリカの成長率は、ソフトランディングに成功した1995年よりも低くなる可能性が高いと考えている。実質FF金利以外にも今後のアメリカ経済の動向を考えるほかの論点を含めて、別の機会に考えを述べたい。

ところで、FRBの利上げ開始と、その後の大幅な利上げが予想されたことで、現行の金融政策を堅持する日本銀行とのコントラストが大きくなった。28日に日銀は、YCC(イールドカーブコントロール=長短金利操作)政策を堅持する中、事前のアナウンスどおりに指し値オペによって10年国債金利を0.25%までの上昇に抑えた。こうした中で思惑が交錯して、一時は1ドル=125円台まで円安が急ピッチで進んだ。

日銀金融政策に変化の可能性が低いとみるワケ

こうした情勢を受け、「円安進行を受けて日本銀行の緩和姿勢が揺らぐ」との見方が今後さらに強まるかもしれない。だが、アメリカと日本の経済状況を比べると、依然として違いが大きい。

いくつかあるが、1つにはインフレ予想が日本ではまだ低いことが挙げられる。先述したFRBが利上げピッチを早めた1つの要因は、安定していたインフレ期待が揺らぐリスクがあるとの判断がFRBの中で強まったことが大きかったと思われる。

日本でも、原材料などのコストプッシュによる価格上昇が散見されるが、サービス価格や賃金を含めてインフレが高まる兆しは少ない。インフレが今後高進するとの見通しはまだ少数とみられ、金融市場で観測される日本のインフレ期待は、最近やや高まっているが、2014~2015年時点よりも依然低いままである。

アメリカとは異なり、日本では低位にあるインフレ期待を引き上げる必要があるといえる。このため、FRBが今後大幅な利上げを行っても、日銀の現在の政策が変わる可能性は低いと筆者は考えている。金融緩和政策の継続性を高める対応として、10年長期金利の変動幅の調整が再度行われる可能性はあるが、130円を超えて円安が進んだときに初めて検討される対応になるのではないか。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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