意味あった?東証市場改革「完全骨抜き」の全内幕 1部上場の84%が横滑り、海外マネー流出の危機
さらに、最上位市場の上場維持基準についても、時価総額で1000億円や500億円という声が当初上がっていたものの、審議会で大きな議論がないまま、いつのまにか流通時価総額で100億円にまで緩められていたというのが実態だ。
大手金融機関の役員はあるとき、金融庁の幹部に上場基準を大きく緩めた理由を尋ねたことがある。「やっぱり最初から結論ありきですかと意地悪く問いかけたら、反論するどころか『ご想像にお任せします』と言って否定しなかった。お互いに苦笑いするしかなかった」と話す。
東証から議論を丸投げされ、そのことで政治家たちから激しいプレッシャーを受ける中、金融庁として東証を本気で改革する気など、さらさらなかったようだ。
TOPIXの見直しが進まなかったワケ
一方で、改革の芽が消えたわけではなかった。TOPIX(東証株価指数)の見直しという、もう1つの大きなテーマがあったからだ。TOPIXは東証1部の全企業で構成されており、市場区分と完全に一体だ。そのTOPIXを東証1部と切り離し、厳選した優良企業で構成していくという道が、そのときはまだ残されていたわけだ。
TOPIXに連動するインデックスファンドが人気を集める中、株取引の主役になっている海外マネー(左図)を今後さらに呼び込むには、市場区分の変更よりも、むしろTOPIXの見直しこそが改革の本丸だったといえる。
東証の経営陣の中にも、TOPIX改革に熱い思いを寄せる役員が複数おり、中でも「熱心だったのが当時社長を務めていた宮原(幸一郎)さんだった」と東証の関係者は明かす。
しかしながら、TOPIX改革の先導役だった宮原氏は、20年10月の大規模システム障害によって、経営から姿を消してしまう。これが、改革が骨抜きになった2つ目の要因だ。
このとき東証にとって何よりもまずかったのが、障害時の初動対応だ。政府や金融庁に状況を逐一報告することをしないまま、株式売買を終日停止することを早々と決めてしまったのだ。