"戦場"キエフに留まる女性「死ぬ覚悟」を語る理由 日本人写真家がとらえたウクライナの現在

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早速、私からアンナに問い合わせのメールを送った。返事はこうだった。

〈ありがとう。でも、私は避難するつもりはありません。私と家族はキエフに留まっています〉

アンナの自宅近くにはロシア軍のミサイルが度々着弾している。避難の途中で万が一のことが起きてはいけないと、案じての判断らしい。

1986年に起きたチェルノブイリ原発事故。移住を強いられた住民は約16万人にのぼり、多くが100キロ離れたキエフに辿り着いた。一方、放射能の影響を心配して、100万もの市民がキエフから逃げ出したという。

当時、飛行場や鉄道の切符売り場に殺到した市民の姿は、38年後の今につながって見える。原発の恐ろしさを熟知しているはずのロシアが、こともあろうか運用中の原発に砲撃を加えたのは開戦9日目、3月4日のことだった。

ロシア軍の攻撃を受けたザポリージャ原発(写真:Press service of National Nuclear Energy Generating Company Energoatom/ロイター/アフロ)

欧州最大級の出力を誇るザポリージャ原発。6機の原子炉を有し、国内で使用する電力のうち約2割を担っている。砲撃によって火災が発生したのは原子炉付近にある訓練棟だった。長くチェルノブイリ原発の被災者支援に関わってきたリサーチャーはこう語る。

「ああ、ロシア軍は一番大きな原発にも来てしまったか、と感じました。そのとき、すでにチェルノブイリが占拠されていましたから」

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