経済安保の推進に絡むあまりに「怪しげな構図」 金融庁、防衛省への「不当介入」に国会で疑義

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一方の國分氏は2018年11月末にデロイトを退職してEYに移籍した。だが、思わぬ事態に直面する。國分氏がデロイトの業務に打撃を与えようとしたとして、古巣との裁判沙汰に発展したのだ(詳細は2月25日配信の「仕掛け人たちにトラブル続出 看板揺らぐ経済安保」参照)。

2月16日の判決で、東京地裁は、國分氏が「社会的相当性を逸脱した背信的な引き抜き行為」をしたとして5086万円の支払いを命じた。判決文によれば、周囲には「デロイトは官公庁向け業務から締め出される。デロイトの顧客情報が中国に抜かれるという記事が近々出るから」などと語っていたという。

事実、それからまもない2019年2月以降、複数のメディアが「デロイトの顧客情報が中国に流出する」という報道を始めた。デロイトは自社のホームページで「事実と異なる」と反論したが、話は政府内にまで拡がった。

東洋経済が防衛省の総合評価落札方式における入札情報を調べたところ、デロイトは2019年5月以降、入札にすら参加できていない。2018年以前は全体の2~3割の事業に入札参加し、競争していたのとは対称的だ。

東洋経済は國分氏に、防衛省の事業がデロイトからEYに大きくシフトしていることについて見解を尋ねたが「特にありません」という回答だった。

問われる「フェアな競争」

金融庁の文書に経済安保の文言が挿入された経緯や、防衛省の契約先のEYシフト。どちらにも大きな利得が絡むだけに、より情報開示を進めるべきだろう。国会で大串議員は「経済安保ビジネスが生まれようとしているのではないか」と指摘した。

経済安保政策が進めば、企業の経済活動はさまざまな場面で制約されることになる。「安全保障のため」という大義の下では受忍せざるをえないが、他方、政府高官が一部の企業を特別扱いしたり、政府の契約相手が不自然に変わっていくことが「経済安保の正体」であるならば、経済界への説得力は低下するだろう。

経済安保の「専門家」として知られる國分氏はかねて「フェアな競争」を守ることが重要だと説いてきた。それは、今こそ問われている。

野中 大樹 東洋経済 記者

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のなか だいき / Daiki Nonaka

熊本県生まれ。週刊誌記者を経て2018年に東洋経済新報社入社。週刊東洋経済編集部。

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