吉野家社長「牛丼値上げのすべてを話そう」 独占インタビューでわかった値上げの舞台裏

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たとえば、私が以前経営していたはなまるは、一人で食べる方もいれば、週末になると3世代の家族が利用していただくこともある。これは、うどんというメニューだからではないと思う。お店のあり方がそうさせている。牛丼でもそれはできる。その専属チームを年明け以降に作る。これまでも一部やってきたが、年明け以降はさらにやっていく。

――従業員にはどういうメッセージを送ったのでしょうか。

本来であれば、この手の大きな政策を実行するときは、全社員を集めて直接説明をする。しかし、繁忙期の12月という時期的な問題もあり、値上げを発表した9日の13時に動画メッセージを全店に一斉配信した。

そこで伝えたのは、今回、値上げ率として27%弱になるので、150%の真心でお客様をお迎えしようということ。今までだって、一生懸命やってくれているとは思うが、値段が上がっても吉野家がいいと言ってくれるお客様に最大限のもてなしをしようと伝えた。

従業員に対しても心苦しさがある

9日の価格改定の記者会見で、苦渋の決断とか、心苦しいという表現を何度も使ったが、それはお客様に対しての言葉であると同時に、従業員への言葉でもあった。

2004年にBSE(牛海綿状脳症)で牛丼が販売中止に追い込まれて、そこから半年も経たないうちに私ははなまるに移った。牛丼の販売再開の決起集会で、社員が涙したらしい。そういう時に、僕は外から見ていた。だから最近の吉野家の若い社員からすると、僕ははなまるの人なんですよ。

その時、怖いと思ったのが、吉野家のことをよく知りもしないやつがコストの計算だけで価格を上げた、と従業員に思われること。「一生懸命頑張りますからご理解ください」という気持ちで接客するのか、「なんかウチの偉い人が決めてすみませんね」という気持ちになるのかは大きく違う。心苦しいという気持ちをお客さんに対してもそうだし、従業員にも理解してほしかった。これだけ原価が上がっているから当たり前、というマインドではいけない。

――9月に安部氏からバトンを受けて事業会社の社長に就任しました。今後、河村カラーをどのように打ち出していきますか。

飲食業はある意味、製造業をトレースしてきたようなところもあると思う。大量生産・大量消費で価値を上げていく。このビジネスモデルは限界に近づいていると感じている。

世界中から安くて美味しい食材を調達してきて、自分たちで加工して、それをお店に納品する。店は標準化された店舗でマニュアル武装され、建築コストも安くなる。パートタイマーがすぐに戦力化できて、一斉にチェーンオペレーションができる。これが今までのチェーンレストランの勝ちパターン。だけど、どんなにその仕組みを正確に回しても利益が出ない状況になっている。

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