中国の国家主席も、健さんが大好きだった 中国人の、高倉健への共感を大切にしたい

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35年ほど日中ビジネスに携わる者として、確かに思い当たるフシがある。私が初めて中国の広州交易会に参加した時(1979年)に、中国人からよく健さんと中野良子さんの名前を聞いた。聞いてみると日本の映画で「追補」という映画の主人公がこの2人であったのだ。

中国の40歳以上の中国人は例外なく、ほぼ全員が「追補」を見ている。「追補」とは、日本語の映画タイトルでは「君よ憤怒の河を渉れ」である。西村寿行の小説を原作とした、佐藤純彌監督によるサスペンスアクション映画だ。

自らの迫害を、健さんに重ねた中国の人々

1978年に日中友好条約が締結され、中国で初めて公開された外国映画が「追補」だった。実は、私自身は当時、この映画がなぜ中国で大ヒットしたのかがわからなかった。1970年代の文化大革命は、多くの人々が無実の罪を着せられ迫害された時代だったが、この映画のストーリーは当時の中国の状況に非常に重なった。

冤罪をかけられた東京地検検事が突然、警察官に強盗傷害容疑で連行されるが、何とか逃げだした主人公(健さん)は無実の罪を晴らすために反撃に出るという筋書きだが、彼が演じる「国家権力との闘い」に、大衆は溜飲を下げたのだ。文革時代に汚名を着せられ無実の罪に問われた人たちにとって、共感できる物語だった。

実は、この時期は中国が対外開放政策を掲げて日中貿易が激増した時期でもあったから日本映画ならなんでも受けいれたのである。つまり、中国人民に娯楽のない時代に日中関係の蜜月時代がやってきてその象徴的とも云える健さんの映画「追補」が中国人の心を満足させたのだ。

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