健さんのイメージは、誠実で不器用で嘘のつけない真面目な日本人である。どの映画でも同じキャラクターであるから、わかり易くていいのかもしれない。日本政府が対中政策で強硬策に出たり、逆に弱気で接したりすると、中国人にとっては日本の政治手法は同じ東洋人でも複雑すぎて理解しにくいはずだ。その点、健さんは裏表がない。だからわかり易いのだ。
ちなみに、男らしい健さんに対して、中野良子さんは女らしい日本人女性の優しさに溢れている。一般的に中国人女性はキツイ女性が多い。だが彼女のような理想的な大和撫子にあこがれる気持ちは私にも良くわかる。中国では、足のマッサージが盛んだが、一番人気があるのは「良子」という名のマッサージ屋さんであるのをご存じだろうか。
それはさておき、この日中関係が緊張しているときに、中国外交部が特別に健さんに哀悼の意を述べたのは、中国人の40歳以上の人で健さんを知らない人は居ないからだ。当然ながら、日中関係改善に利用する中国外交部の狙いはミエミエであるが、健さんの無骨で真面目な人柄が、中国人に好かれていることも事実である。
こうしたソフトパワーというか、文化の力のようなものは想像以上にわれわれの感性に訴えてくるものだ。中国のことが大嫌いな「ネトウヨ」の諸君が「中国って意外に良いところがあるじゃん」と、つぶやいているのがネット上に見受けられるのである。こうした反応を見ても、文化の力が経済・政治交流の起爆剤になるはずだ。
巨匠チャン・イーモーも、健さんを見て育った
さてチャン・イーモー(張芸謀)氏といえば、当代随一の映画監督である。彼は2008年の北京五輪でも開・閉会式をプロデュースしたが、今回のAPECの晩さん会でも大規模なパフォーマンスの演出を披露した。そこからさかのぼること3年、2005年のチャン監督による映画「千里走単騎」(日本名:千里を行く)では、監督のたっての願いで、健さんに出演を依頼して日中合作の映画になったと聞く。「鉄道員(ポッポ屋)」の後に出た、健さんの作品だ。
チャン監督は健さんの映画を見て監督になりたいと思ったといっているが、やはり彼も誠実で真面目な日本人を見て、多くの中国人に健さんの素晴らしさを紹介したかったのだ。
中国の若い世代にとっては「蒼井そら(元AV女優)」なら知ってるけど高倉健って誰だ?」という反応もあるが、別の見方をすれば、1980年代の日中関係の蜜月時代の象徴のような存在だったのだ。
同時期の男優では、健さん以外に三浦友和や竹脇無我に人気が集まった。その後にNHKの朝ドラの「おしん」の田中裕子の人気が、一世を風靡した。その他の女優では山口百恵、栗原小巻、酒井法子、田中絹代にも人気が集まった。
天安門事件以降は、若者たちは日本映画には興味なくなったようだ。天安門事件以降は社会主義市場経済と愛国教育の流れがでて、若者たちには反日教育の成果が出たのか、日本の映画には興味がなくなったようである。
さて、欧米の反応だが、AFP通信は19日、「アジアでライバル関係にあるにもかかわらず、このように親近感をもって死を悼むことはあまり見られない」と報じた。AP通信は「高倉健は日中友好の体現者だ」「日本の最後の硬骨漢」「中国に友情をもって接した日本の国宝」などといったネットユーザーの書き込みを引用し、国営通信・新華社の「その男らしさは中国人に影響を与えた」とする追悼記事を紹介している。
文化の影響とは絶大なものである。健さんの存在感が、中国人にとってこれほど大きいとは想像もしなかった。安倍首相と習近平主席との冷えた会談の雰囲気からは、将来の日中関係は見えて来ない。だが、健さんに対しての中国人が持っている共感は、日中両国民の感性が似ているということを、両国間で共有させてくれた。健さんのご冥福を、改めて祈りたい。
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