インドには、103年にわたる社史において一度もストライキや深刻な労働問題に直面したことがないという希有な企業がある。2輪車製造を柱とするコングロマリット、TVSグループだ。ほかの新興国同様、ストが珍しくないインドにおいて、TVSの良好な労使関係は実に驚くべきものだ。
TVSは、法律家でありインド鉄道の社員でもあったT・V・スンダラム・アイアンガー氏が1911年にマドゥライで設立した。祖業はバス事業で、ほどなくして自動車とガスの生産へと事業分野を広げた。商機をもたらしたのは第2次世界大戦。ガソリン不足や運輸サービスに対する需要を満たしたことで事業は大きく成長した。
スクーターが爆発的ヒット
TVSはインドの2輪車市場において、多くの新商品を発売した先駆者として知られる。1980年にインドで初めて総排気量50cc以下のいわゆるスクーターを発売。大衆向けの手頃な価格設定がうけ、中産階級の市民なら誰でも1台は持っているといわれるほどの大ヒットとなった。また、94年に発売した女性向け2輪車(スクーティ)もインド全土で大人気。女性にとっての「マイ・ファースト・2輪」の定番であり、現在でも豊富なカラーバリエーションなどで支持を集めている。
現在の事業範囲は2輪・3輪自動車からダイカスト製品やブレーキといった関連部品のほか、金融、物流、ITなどにも広がっており、社員は4万人以上、売上高は70億ドル近くに上る。
TVSが良好な労使関係を築けている最大の秘密は、その経営哲学にあるようだ。「最初からきちんとやる」をモットーとするTVSは、福利厚生など社員にかかわる制度・仕組みづくりにも地道かつ誠実に取り組み続けているのだ。
たとえば、TVSが退職準備積立金制度を導入したのは1940年代初め。インドで積立基金法が可決されたのは1952年になってからであり、ほかの民間企業が後に続いたのは同年以降。TVSはほかの多くの民間企業に比べ10数年も早く取り組んでいたのだ。
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