このベラルーシ提案は「各国人民がそれぞれの国情に応じて人権発展の道を自己選択する権利を尊重する」として、人権は制度に基づいて発展する、選択可能な権利との認識を示した。
こうした事例に看取されるように、習政権の人権ディスコースは発展途上国や権威主義国の賛同を得やすく、これに共鳴する国家が少なからず存在する。最も懸念すべきはロシアによる共鳴である。
中ロの共通認識
2月4日の中ロ首脳会談後に発表した「新時代の国際関係とグローバルで持続可能な発展に関する共同声明」で両国は、まず民主主義と人権に対する共通認識を確認した。
「個々の国がイデオロギー的な線引きで他国に自分たちの『民主の標準』を押し付け、(中略)民主主義の定義を独占することは、実は民主主義を踏みつけ、民主主義の精神と真の価値を裏切ることである」として従来の民主主義の定義や基準への挑戦を示し、「各国の国情は異なり、歴史文化、社会制度、経済社会の発展の水準には差があるため、人権の普遍性堅持と各国の実情を組み合わせ、その国情や国民のニーズに応じて人権を保護するべきである」と主張した。
この認識は普遍的価値に対するアンチテーゼであると同時に、欧米との認知領域における争いにおいての立脚点でもあるだろう。これまで中国は「人類運命共同体」を提起するなど、「反米」や経済協力だけではないパートナー国との紐帯、すなわち戦略的なビジョンの共有を模索してきた。そのためロシアとの共闘は、ディスコースパワー形成の観点からも極めて重要なのである。
中国のディスコースにはプロパガンダと欧米型政治システムの歪(ひずみ)に対する妥当な批判が混在しており、各国の潜在的な反米意識や対立的イデオロギーに共鳴する可能性がある。これを放置し自由民主主義の価値が劣勢に陥るならば、日本の国益とはならない。日本が成熟した民主主義と人権の概念を確立し、関係の深いアジア諸国を重視した包摂性のある戦略的ナラティブを形成する必要性が、これまで以上に高まっている。
(江藤名保子/学習院大学法学部政治学科教授)
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