中国の民主主義と人権の「認知戦」に要警戒なワケ 習近平政権による「話語権」と価値の相克

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2016年に採択された第13次五カ年計画には、「グローバル・ガバナンスと国際公共財の供給に積極的に関与し、グローバル経済ガバナンスでの制度的ディスコースパワー(制度性話語権)を高め、幅広い利益共同体を構築する」との記載がある。

制度的ディスコースパワーとは、経済領域におけるルール形成などの国際的ガバナンスに関与し、制度を通じて恒常的にディスコースパワーを発揮する状態を意味する。これは中国が有する経済的パワーを政治的パワーに転換するシステムの構築を目指していると考えられる。

中国独自の人権ディスコース

練度を増してきたディスコースパワー戦略を語るうえでの、もう1つの焦点が人権である。習近平政権は「生存権と発展権が第1の基本的人権」(「中国共産党の人権尊重・保障の偉大な実践」白書より)と規定する中国独自の人権ディスコースを、巧妙に国際社会に埋め込もうとしている。

例えば中国が2017年、2019年、2021年の三度にわたって国連人権理事会に提起した「あらゆる人権の享有に対する発展の貢献」決議は、「すべての人権に対する発展の貢献」がいかに重要かを強調するものであった。

いずれも賛成多数で決議されたが、三度とも反対票を投じた日本代表が「個人の人権ではなく、発展、貧困の根絶と国際的な発展協力に重きを置きすぎている」(2021年)と指摘したように、いわば「自然権(すべての人間が生まれながら有する自由、平等と幸福を追求する権利)」を希釈する内容であった。

なお習政権による「発展(development)」の重視は人権概念のみならず、国際秩序の再構築の動きともリンクしている。例えば習政権は国連の「持続可能な開発(sustainable development)のための2030アジェンダ」(以下、2030アジェンダ)においても「発展」を強調する。同様に2021年9月の国連総会で習近平国家主席は「グローバル発展イニシアティブ」を提起し、2030アジェンダと「人類運命共同体」の促進を軸に世界の経済発展を主導するリーダーを自ら演出した。

中国の人権ディスコースは、経済協力を鎹(かすがい)とする賛同国の「数の力」を得て実質的な影響力を発揮している。例えば近年、中国は新疆ウィグル族問題や香港での民主化運動弾圧を事由にアメリカやEUから制裁を受けた。だが2021年6月の人権理事会では、44カ国の署名による「新疆における人権状況に関する共同声明」をカナダが提出したのに対し、同日にベラルーシが提出した中国の内政に干渉すべきではないとする共同声明には69カ国の署名があった。

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