日本人は「ロシアの核」の危なさをわかっていない 「国が広すぎる、金もない、だから使うしかない」

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なお国力に関していうと、クリミア侵攻やシリアへの介入の仕方などを見ると、“大国のガチンコ勝負”ではなくなっているとも番匠氏は述べている。そうではなく、柔軟に対応して実を取ろうという感じになっているというのだ。重戦力重視の姿勢を維持しながら、時代に合わせた柔軟な戦力も持ってきているということであるため、冷戦時代よりも対応が難しくなっているわけだ。

エスカレーション抑止論

ロシアの核戦略の議論によく出てくるのが「エスカレーション抑止論」です。ロシアが最初に限定的に核兵器を使用することにより、相手が怯んで軍事行動を停止させることを目的とする考え方で、エスカレーションを止めるために核兵器を使うという非常に危険な考え方です。今までは使ってはいけない兵器だったのに、ハードルを低くして核を使おうとする姿勢。これは非常に注意をしなければいけない。クリミアのときにプーチンは、NATOが介入したら核を使用する用意があったと言っています。彼らは本気で使う可能性がある。(159ページより)

また番匠氏は、冷戦期のNATO(北大西洋条約機構)とワルシャワ条約機構軍の立場が逆転しているような気がするとも言う。冷戦時代はワルシャワ条約機構軍が強かったが、いまやNATO軍は近代的で相当な力を持ってきている。そのためロシアは「弱者の戦法」として核を使うかもしれない。

そういう意味で、「INF条約が終わったからどうするか」というのは対中国だけではなく対ロシアについても考えていかなければならないということだ。さらに、北方領土の重要性は、ロシアにとってむしろ高まっているとも指摘している。

その証拠が、最近の部隊の配備です。例えば地対艦ミサイルのバスチオンやバル、最新鋭の防空ミサイルを択捉島と国後島に配置したと発表しています。ロシアは近年、北方領土駐留軍の近代化を着実に進めています。
それから、千島列島の松輪島など旧帝国陸軍が拠点を持っていたところにも新しい基地を置く計画もあるようです。オーシャンバスチオン(海洋要塞)であるオホーツク海の防備体制は、冷戦期よりも量的には減っていますが、それを質の向上によって補おうというのが最近のロシアの傾向です。演習の状況などを見ても、決して油断はできないという感じがします。(159〜160ページより)
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