兼原氏は、「ロシアは武門の国なので、軍事だけは手を抜かない」と指摘する。事実、経済規模は日本の4分の1であるにもかかわらず、国防予算はずっと多いそうだ。日本の5兆円規模に対して7兆円規模くらいあるというのだから驚きである。
軍隊にしても、日本の自衛隊が25万人であるのに対し、ロシアの軍隊は90万人くらい存在するのだとか。しかし、それでも広すぎる国土を守るには充分ではないため、核戦力だけは絶対に譲らないのだという。後述するように、核ミサイルの開発にも余念がないようだ。
「核を使う」と公言する背景
一番怖いと思うのは、彼らの核ドクトリンです。「ロシアの死活的な利益が脅かされた場合は核を使う」と公言しています。これは「戦術核を使う」という意味です。そう言っておかないとあの広い領土が守れない、と彼らは考えている。最近は北極海の氷も解け始めていますから、長大な北極海沿岸部も守らねばならないとなったら、大変なのは確かです。しかし、ロシアの戦術核先制使用のドクトリンは、核の均衡と安定を図る上で、不安定要因になっていると思います。(149ページより)
これは、プーチン大統領が核の使用を否定しない現状とも合致する部分があるのではないか? 非常に気になるところである。
「冷戦に負けたリベンジをしたい」
ロシアはかつてアメリカに対抗する世界最大の核大国だったが、冷戦後にソ連も崩壊して国力が落ち、そのプライドを維持することが難しくなっていると指摘するのは番匠氏だ。
とはいえ、かつてのプライドが簡単に捨てられるものではないのも事実。そればかりか「冷戦に負けたリベンジをしたい」というナショナリズムもあるため、レガシーを維持しつつ国力に合わせた形で柔軟に核戦略を変えようとしているのではないかという。
2018年の3月、プーチンは年次教書演説の中で6種類の近代兵器に言及しました。サルマト(大型ICBM)、アバンガルド(極超音速滑空兵器)、キンジャール(極超音速空中発射型弾道ミサイル)、プレヴェスニク(地上発射型原子力推進式巡航ミサイル)、ポセイドン(原子力無人潜水兵器)、ペレスヴェート(レーザー兵器)です。これらは、いずれもアメリカのNPR(核態勢の見直し)への対抗を念頭に、ミサイル防衛システムを突破していく目的で開発されていると考えられます。まだまだレガシーの部分で俺たちは負けないぞ、ということだと思います。実際に、その中で幾つかは実戦配備をしているし、夢物語では決してない。だから、ロシアの兵器近代化には、引き続き注意が必要だと思います。(157ページより)
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