日本人が知らない「幼児教育」が年収に与える影響 生後1000日間の教育が知能発達の鍵を握る

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先とは異なる先駆的な研究では、ジャマイカの貧困家庭の乳幼児に毎週、自治体の保健師が1回1時間の家庭訪問を2年間行った。家庭訪問のあいだ保健師は母親たちに、子どもとふれあったり一緒に遊んだりして、子どもの認知的スキルや社会情動的スキルの発達を促すよう後押しをした。

これらの子どもたちに20年後インタビューを行ったところ、保健師の毎週の訪問を受けなかった対照グループの子どもたちに比べ、彼らの収入は42パーセントも多かった。

生後初期に比較的簡単な介入を行うだけで、将来の収入に大きな影響がもたらされ、人生の早い段階でのハンデを取り返すことができるのだ。

先進国でも確認された幼児教育の効果

先進国においても、幼児教育が大きな利益をもたらすことが確認されている。アメリカで行われたある研究は、シカゴのスラム街に暮らす貧困家庭の6歳以下の子どもに就学前プログラムを受けさせ、その影響を調査した。

25年後に評価をしたところ、プログラムに参加していた子どもはそうでない子どもよりも総じて学業成績や収入や社会経済的なステータスが上で、健康保険の加入率も優っていた。犯罪的な行動や薬物乱用をする率も、対照グループより低かった。効果が最も顕著にあらわれたのは、中等教育を終えなかった両親から生まれた男の子たちだった。

だが、大きな利益があるという証拠がこれだけあるにもかかわらず、大半の国はこの幼少期の教育に十分投資を行っていない。世界の3-6歳の子どものうち、就学前に教育を受けられるのは全体のおよそ半分にとどまり、低所得国だけに限ればその数は5分の1にまで減少する。

2012年に北米や西欧で未就学児の教育に費やされたのは、教育予算のうちわずか8.8パーセントだ。サハラ以南のアフリカでは、この割合は0.3パーセントまで減少する。

ラテンアメリカの政府が6歳以下の子どもに使う教育費は、6-11歳の教育費のわずか3分の1だ。そして政府が投資をするとなっても、それは未就学児のための校舎などの箱モノづくりに偏りがちだ。だがそうしたものは、認知的発達の必要性が最も大きいこの年ごろの子どもにはあまり利益をもたらさない。先進国では就学前の教育にあてる予算は高めな傾向があるが、国による差はかなり大きい。アイスランドやスウェーデンではGDPの1.5パーセント以上がこの時期の教育に投じられているが、アメリカや日本やトルコではその3分の1程度しかない。

なぜ、幼児教育にはあまり投資をしないのが大勢なのだろうか? 1つの理由は、この時期の介入が非常に大きな利益をもたらすことを、そしてそうした利益が将来さらに重要になるかもしれない理由を、まだ多くの人が知らずにいたり、理解していなかったりするからだ。

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