日本人が知らない「幼児教育」が年収に与える影響 生後1000日間の教育が知能発達の鍵を握る

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早期介入のメリットが最もはっきり見えるのは、開発途上国においてだ。それらの国では5歳以下の子どもの30パーセントが肉体的発育に遅れがあり、年齢に比して身長が低い。それは通常、慢性的な栄養失調の結果だ。そうした子どもは概して学業面の到達度が低く、認知的能力も劣りがちだ。

言いかえれば、そうした子どもの多くは、脳の発達やスキルの面で最初から後れを取ったまま学校生活を始めるのだ。彼らはたとえいい学校に行けたとしても、そこで受ける教育から十分に恩恵を受けにくい。そして脳の可塑性は時とともに失われていくため、こうした子どもたちがまわりに追いつくのはさらに難しくなる。

それが意味するのは、最初の学力差が時間とともにさらに拡大していくということだ。幼いころの発達が十分でないと、それは子どもの生涯にわたって、そして国の経済的・社会的な発展にまで影響を及ぼすことになる。

生涯にわたって利益をもたらすプログラム

世界で最も評価の高い医学雑誌の1つ『ランセット』に発表された、子どもの発達についての重要な一連の記事に、幼児期の介入が取り上げられている。それによると、5歳以下の子ども2億人以上が、発育阻害〔訳注 日常的に栄養を十分とれずに慢性栄養不良に陥り、年齢相応の身長まで成長しない状態〕やヨウ素や鉄分の不足、そして不適切な認知的刺激などの結果、潜在的に可能であるはずの発達を遂げられずにいる。

これらは母親のうつや暴力や、環境汚染やマラリアなどによってさらに悪化することがある。だが、こうした不利な状況に対処するのは可能だ。必要なのは、いちばん困窮している人々を対象にした質の高いプログラムをつくり、そうした子どもや家族が健康や栄養や教育について理解するのを助ける──直接的な学びの場を提供することだ。

たとえばエクアドル、メキシコ、ニカラグアなどの国々は、最貧層の家庭に現金を給付するのに加え、妊婦健診や新生児へのサポートなどを行うことで、子どもの発育不全を減らし、認知的成長を促進するのに成功した。

この種のプログラムは、前向きなしつけの仕方を指導したり、読み聞かせや歌唱などの刺激的な活動や子育てのストレス管理などを教えたりすることで、育児の当事者に利益をもたらす。

サポートは家庭訪問や自治体の集まりや健康診断などを通じて行うことが可能で、子どもの肉体や認知の発達や健康に大きな効果を発揮してきた。こうした介入によるリターンの率は、実行されるプログラムの焦点や期間や質などさまざまな要因に左右される。それでも、プログラムのために投じた1ドルごとに6-17ドルの利益が出ている。

子どもの側からすると、こうしたプログラムによって人生のいいスタートを切れるかどうかが変わる。そして、これらの利益は生涯持続する可能性がある。

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