脳震とう問題あった大相撲「土俵は危険」説の実際 安全面への対策は進むものの対策はまだ不十分

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映像を見直すと、確かに藤島審判長は宇良に声をかけている。また、呼び出しが駆けつけて、有事に備えていた。

審判部の別の親方は「あれだけ観客が入っている中、土俵に戻れなかったら恥ずかしいという心理も働いてしまう。幕内力士なら、自分の体は自分が分かる。幕内力士が『大丈夫です』というなら、信用するしかない」とした。

いずれにしても、宇良を無理に土俵に上げたわけでないという事情は分かった。

(2)宇良の取り口は危ないのか

宇良が頭を強打した後、八角理事長(元横綱北勝海)は「最後まであきらめないのが宇良だけど、最後に(正代に)しがみついたのは自分も相手も危ない」と指摘。さらに「ギリギリまで頑張るのが宇良の相撲だけにね」「自分だけじゃない。相手もケガにつながる。しぶといのはいいんだけどね」などと、宇良の敢闘精神をたたえつつも、ケガにつながりかねない危険性を口にした。

多くの親方衆も納得する意見だが、宇良に近いある親方は、こう反論する。

「勝負をあきらめろってことですか? 宇良はあそこからどうにかしようとしているんです。本人は(逆転)できると思ってやっている。ケガをして欲しくないという気持ちは分かりますし、そういう意見も必要ですが、考え方の違いですね」

ケガの危険性をはらむ取り口ではあるが、否定できるものではない。

土俵の高さが危険だという指摘

(3)土俵は危険な場所なのか

あまり知られていないが、土俵下の審判が座っている辺りは、柔らかい素材のシートが敷かれていることを前置きしておく。柔らかいといっても、クッションほどではなく、歩くと足がやや沈み込む程度ではあるが、硬い床ではない。

また、土俵の高さが危険だという指摘は根強い。観客からの見やすさを優先しているためだ。土俵から落下する時にケガをするケースが多く、土俵の外側を広めにとってはどうかという意見も見聞きする。これなら見やすさと安全面を両立できるかもしれない。

ただし、実現するにはかなりの費用がかかるため、日本相撲協会で議論されるレベルに至っていない。様式美や伝統文化にかかわる問題でもある。両国国技館の場合、相撲以外のイベントでも使用できるように土俵が床下に収納される設計になっている。土俵の外側を広げれば、これができなくなる。さらに、たまり席が減る。コロナ禍で減収にある日本相撲協会にとって、力士の安全面への配慮が必要であることは分かっているものの、金がかかる施策は極めて提案しにくい状況にある。

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