脳震とう問題あった大相撲「土俵は危険」説の実際 安全面への対策は進むものの対策はまだ不十分

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(4)安全対策は十分か

少しずつではあるが、安全面への対策は進んでいる。昨年1月の初場所中、幕下力士が立ち合い成立前に相手とぶつかった際、脳振とうを起こした。その場所後、審判規定の一部を変更。「審判委員は、力士の立ち合いが成立する前に、相撲が取れる状態でないと認めた場合には、協議の上で当該力士を不戦敗とすることができる」とした。同年夏場所前には、首が固定できるストレッチャーが常備され、親方衆らを対象に「土俵上の応急対応処置講習会」を行った。今も本場所前は、警備の親方衆が研修会を行っているほか、本場所中でもストレッチャーの使い方を自主的に確認する親方もいる。

ただし、脳振とうが起きてしまった後のガイドラインは、日本相撲協会にはない。翌日以降の出場は、本人や師匠の判断に任せられている。今は公傷制度もない。前述した宇良に近い親方は「どうしたらいいか、難しい問題。(制度を)変えるのは、上の方の人たち。(脳振とうが)起きなければいいけど、起きた時にどうすればいいか対策はした方がいい」と漏らした。

力士が思い切って相撲を取れる環境を

(5)改善策はあるのか

現状では、妙案はない。力士は休場すればその分、番付が下がる。日々、頭をぶつけ合うため、力士は頭部への衝撃を常に受けている。競技の特性上、慎重な判断が必要になる。何人かの親方に意見を求めると「例えば、脳振とうになった場合、検査日など2日設けて、1勝1敗として換算してもらったらどうか。

その場合、7勝6敗でも勝ち越しとみなしてもらうとか…」「ほかのスポーツなら、1週間休むこともあるんですよね? これからの課題ですね」などと歯切れは悪い。そんな中、「脳振とうのような症状の場合、『その場から動くな』と力士に事前に通達しておいてもいいかもしれません」という意見もあった。根本的な解決にはならなくとも、すぐにでも取り入れられる現実的な対策とも言える。

幸い、初場所の宇良は翌日から出場し、結果論かもしれないが勝ち越した。また、宇良の師匠である木瀬親方(元幕内肥後ノ海)はむちゃを強いるタイプでは決してないことも付記しておく。昨年初場所、弟子の十両美ノ海が13日目に脳振とうを起こし、師匠の判断により14日目から休場させた。あと1勝で勝ち越せたにもかかわらず、休むことを優先させた。当時「体が大事。出ないのも一つの勇気だ」と説明していた。

先場所の宇良の場合、現場で審判が無理を強いたわけではなく、協会としても思考が停止しているわけではない実情は分かってもらえただろうか。とはいえ、大相撲において、脳振とうへの対策はまだ不十分だ。やれることからでも手を付け、力士が思い切って相撲を取れる環境を整えてほしい。同時に、角界入りを目指す若者や、時に肩身の狭い思いをする好角家を安心させて欲しいとも思う。

(取材・構成=佐々木一郎)

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