各国政府の危機対応能力を決定する要因は債務水準だけではない《ムーディーズの業界分析》
エレナ・ダガー
ムーディーズは、近年における政府債務デフォルトの実例を分析し、それらの共通点と相違点を抽出するとともに、過去のデフォルト事例における債務の対GDP比率の推移、債務負担能力、および外貨建て債務のトレンドを精査し、そこから得られる教訓を検討した。現在、各国の高水準の政府債務に注目が集まっているが、それだけではなく、経済の耐性、政治制度の質、および政府債務の構成等の要因も、当該国政府の危機対応能力を判断するうえで等しく重要である、と結論づけている。
今日の政府債務危機の特徴は、経済の規模が大きく、富裕で分散効果の高い、本来であればショックに対して十分に対応できるはずの国にまで影響していることである。過去においては、政府債務のデフォルトは、一般的に規模が小さく、はるかに貧しく、集中リスクの高い経済、すなわちショックに弱い国で発生していた。
1997年以降に発生した政府債務のデフォルトは20件に上る。これらのデフォルトは、銀行危機によるものが15%、長期的な景気低迷によるものが15%、高水準の債務負担によるものが35%、政治的および制度的な脆弱性によるものが35%であった。デフォルトの根源は奥深く、4つのカテゴリーに分類できる。
カテゴリー1.
銀行危機。過去における3つの政府債務のデフォルトは、システミックな銀行危機の結果発生したものである。銀行再編やリストラにかかるコストの増加により、金融危機に続く数年間で、多額の公的債務が急激に積み上がった。債務の水準が倍増したことで、債務負担能力指標も倍になったことが資本流出の原因となり、このことが通貨危機をもたらした。
カテゴリー2.
長期的な景気低迷。過去最大の政府債務のデフォルト(98年のロシアと、2001年のアルゼンチンのそれを含む)は、景気低迷、弱い財政基盤、国内の脆弱性が、外的ショックおよび投資家からの信認の喪失と合わさって発生したものである。これらのデフォルトは、対GDP比では債務水準が比較的低い時点で発生しており、資本の流出がその引き金となった。経済的困窮、通貨危機、金融危機が、政府債務のデフォルトや深刻な通貨切り下げを引き起こす、という悪循環が特徴的である。