各国政府の危機対応能力を決定する要因は債務水準だけではない《ムーディーズの業界分析》

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 ムーディーズは、具体的には次の4点を指摘している。

(1)今日の先進諸国における状況と、近年デフォルトに陥った諸国の状況には、重要な違いが多く見られる。確かにデフォルトは債務負担の大きさと相関するものの、債務の対GDP比率が高水準であること自体は、デフォルトの必要条件でも十分条件でもない。

(2)過去にデフォルトした政府は、債務の外貨エクスポージャーが大きく、デフォルトに至るまでの1年間において外貨建て債務が債務総額に占める割合は平均で76%に上り、債務返済負担が大きく、債務総額に占める利払い比率は平均22%であった。

(3)債務水準が比較的低い政府のデフォルトは、当該国の経済見通しが暗く、正味の外貨エクスポージャーが大きく、政治制度の脆弱性が存在する場合に発生している。

(4)逆に、経済の耐性が高く、債務の大半が自国通貨建てで、強固な政治制度を有する国は、過去の例において、比較的大きな債務負担をうまく管理し、マクロ経済ショックや銀行危機に起因する債務の対GDP比率の上昇傾向を、最終的に反転させることに成功してきた。

政府債務のデフォルトに関して、過去の経験が示唆するものを検討したが、政府発行体の数自体が少なく、デフォルトした発行体の数はさらに限られており、それらは新興国に偏っている。そのような国では、経済状況、政策、外的ショックの複雑な相互作用の結果、デフォルトが発生した。先進国が近年直面している財政の悪化の規模と、長期的な人口動態上の課題は、いずれも前例のないものであり、過去のデータからは十分に捕捉しえないさまざまなリスクを引き起こす可能性がある。とはいえ、過去の記録を分析することによって、現在の状況を洞察するうえでの知見が得られるであろう。

※本稿は、2010年11月1日、ニューヨークで発表されたリポート、“Moody's: Sovereigns' Ability to Manage Crises Not Merely Determined by Debt Levels”の抄訳です。

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