欧州では2015年に100万人を超えるシリアや北アフリカの難民が大量に流入し、難民の受け入れ分担をめぐってEU加盟国内の不協和音が高まった。イスラム過激派によるテロ事件が相次いだことも重なり、多くの国で反移民や反イスラム感情が高まり、排外主義的なポピュリスト政党の躍進を招いた。英国においては、バルカン半島を北上する大量の難民が英国に押し寄せるとの根拠のない不安が、EU離脱への支持増加、国民投票による可決につながった側面もある。
こうした難民の大量流入による社会的な軋轢と政治的な波紋の広がりを受け、多くの欧州諸国は従来の寛容な難民受け入れ方針を改め、難民の受け入れ規則や移民の統合政策の厳格化、難民認定されなかった庇護申請者の迅速な送還促進に舵を切った。
さらに、難民の発生源となっている紛争や貧困などの問題解決に向けた支援や働きかけを強め、近隣諸国への資金援助を通じて、欧州への難民流入を抑制しようとしてきた。最近でもタリバンが政権を掌握したアフガニスタンからの難民支援や、ベラルーシ経由でのポーランドへの難民流入に対しても、厳しい態度で臨んでいる。
ウクライナからの脱出には1年の保護期間
だが、ウクライナでの人道被害の拡大を受け、欧州各国のウクライナ支援の動きは早い。ポーランドやチェコはウクライナからの逃避民に対して新型コロナウイルスの陰性証明を免除し、ドイツやオーストリアは自国を目指す逃避民に対して無償で鉄道輸送を提供している。
ロシアによる軍事進攻の開始から1週間後の3月2日、EUは自国を追われたすべてのウクライナ市民を対象に一時的な保護を提供することを決定した。今回の支援では、2001年に制定した「一時保護規則(Temporary Protection Directive)」を初めて活用する。これは当時ユーゴスラビア紛争とコソボ難民の大量発生を受け、非EU圏からの国外逃避民の流入を念頭にしたものだ。
同規則では、武力紛争、地域固有の暴力、組織的な人権侵害のために自国を追われた国外逃避民を対象に、一時保護期間中のEU圏内での居住権、一時保護に関連した情報提供、仕事、住居、社会保障、医療、教育の機会を提供し、必要に応じて家族の呼び寄せや難民申請の機会を保障する。
保護期間は原則1年で、保護を必要とする状況が続く場合、半年毎に自動的に延長され、最長で3年継続する。一時保護の対象者が保護期間後もEU内に留まるためには、保護期間中に難民申請手続きを行い、難民として認定されなければならない。
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