特に有名になったのが、「もし逃げるのであれば手助けをする」と言ったアメリカに対して、「戦いはここで起きている。私が必要なのは逃げる手段ではなく、実弾だ」と毅然と返した言葉でした。
ヤヌコビッチ元ウクライナ大統領はロシアへと逃亡し、アフガニスタンの大統領もタリバンの攻勢から亡命するなど、一国のリーダーが政権崩壊とともに国外脱出するのは当たり前だっただけに、その勇気が高く評価されました。
各国の通訳を泣かせる「情緒的なアピール」
こうした力強い言葉を際立たせる「演出力」も秀逸です。当初は、すっきりとした濃紺のスーツに身を包んでいた大統領ですが、戦況の進行に伴ってオリーブ色の軍のTシャツに変わり、そのたたずまいや真剣な表情から、戦時の緊張感が伝わってきます。
例えば、こちらの動画は街頭からほかの閣僚メンバーと撮影したものですが、セピア色のもの悲しい雰囲気の街の風景を背景に、チームがまるで「アベンジャーズ」のように一致団結して、指揮にあたり、国民とともに戦う姿を印象付けています。
そして、聞く人を圧倒するのが、その力強い語気や低く響く声、鬼気迫る話し方。EUの首脳たちの会議に参加した際は、熱のこもった弁舌で、「より強い経済制裁に躊躇していた彼らの気持ちを揺り動かした」と伝えられています。
「生きている私を見るのはこれが最後かもしれない」。そのあまりに情緒的なアピールに、涙を浮かべる人までいました。彼の言葉を翻訳する通訳が、そろってむせび泣くという逸話もあります。
根っからのエンターテイナーであるゼレンスキー氏は、「物語」の力を誰よりもよく認識しています。人は「勧善懲悪のストーリー」に熱狂します。敵は、まるで地球を滅ぼす悪の帝国の総統にふさわしい風体と顔を持つ、ロシアの独裁者です。
「長いテーブルの端っこにたった一人で座るプーチン」「いつも苦虫をつぶしたような表情のプーチン」「平気で敵をなぶり殺す冷酷で血の通わないプーチン」
そんな権威主義的な独裁者に立ち向かうのは、親しみやすく、時に弱さを見せることもいとわない、血の通ったリーダー。「『強権型』vs『共感型』」というわかりやすい構図で、どちらに支持が集まるかは明快です。
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