「想定外の需要」こそが事業を広げる本質理由 真の需要は「現場」に出向いてこそ見つかるもの

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完全に立ち往生していたパン事業が、「オフィス向け」という想定していなかった方向に進み始めました。

そこで考えたのが「なぜパンなのか」「なぜ興味を持つ企業が多いのか」ということ。

おいしいと評価されたり、面白いアイデアと評価されたりするのはあくまで結果であり、需要の表面的な部分。その一歩奥を覗いてみることで、需要の本質が見えるのではないかと思ったのです。

オフィス向けのパンは、既存の福利厚生の取り組みを補完するものであり、代替するものとして評価されました。このことからわかったのは、既存の需要は固定的ではなく、新しいアイデアによって代替できる可能性があるということ。

また、福利厚生というキーワードも、もうちょっと掘り下げると需要がさらに明確に見えます。

「おいしいパンを食べてもらい、社員に喜んでもらう」

これはもっともシンプルでわかりやすいパターン。しかし、それだけではありません。

「残業して頑張ってくれている社員のために何かお礼をしたい」

「土日のオフィス街は飲食店が閉まるので休日出勤の人に食べさせてあげたい」

「このパンがおいしい、あのパンもおいしいといった話で社内コミュニケーションを活性化したい」

そのような意図で関心を持ち、契約してくれる企業もありました。

こうした話を聞けるのも、現場に行ってお客さんに話を聞くからです。ちなみに、冷凍庫をあまり使っていない会社で、庫内に霜がついている会社もありました。そのような会社では、冷凍庫を取り替える手伝いや、霜取りをしたこともあります。

さまざまな企業と話をしていく中で、福利厚生以外の目的でも「パンを置きたい、買いたい」という需要があることがわかってきました。

たとえば、ある内装業者さんからは「内装工事の提案時に、お客さんにパンフォーユーを紹介して独自性を出したい」という話をもらったことがあります。「商談や契約に来てくれたお客さんへのお礼としてパンを出したい」「来店のお土産にしたい」「コーヒーと一緒にパンを出したい」といった話をもらったこともありました。

需要の背景を深掘りすると事業成長につながる

「パンを置く」という点はどの企業も同じ。

しかし、背景は微妙に違います。

そこを知ることが事業を伸ばしていくことにつながります。「福利厚生として」という打ち出し方のほかに、「お客さんへのお礼に」「お土産に」といった別の角度からのアプローチも考えられるようになるわけです。企業に直接話を聞いたことで、事業の解像度が上がりました。

福利厚生という切り口がありそうだ。働き方改革がキーワードになりそうだ。

そういった気づきはあくまでも入り口。具体的で現実味ある事業にしていくためには、誰に、どうやって、いくらで売るか細かく考える必要があり、企業へのヒアリングによって需要が鮮明になることで、そのために必要な施策や工夫を考えやすくなったのです。

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