まさにアメリカのQE1(量的緩和第1弾)~QE3(同第3弾)がもたらしたのは、企業と富裕層が莫大な利益を受ける傍らで、通貨安により庶民がガソリン代や電気代、食糧費といった生活コストの上昇に苦しみ、格差の拡大をいっそう推し進めてしまったことです。
さらに、主要な大都市圏では景気回復が進む一方で、地方や貧しい地域ではとても回復しているとはいえない状況にあります。
「過剰な金融緩和+株主資本主義」の帰結とは?
2013年の時点で、物価を考慮した実質の最低賃金は1970年代の水準を下回っているというのに、主要企業の業績は最高水準となり、企業トップと従業員の所得格差は1990年代半ばの120倍から270倍へと急拡大しています。「リーマンショック後の景気回復過程での所得増の9割は、上位1%の富裕層が得ている」という試算もあるくらいなのです。
カリフォルニア大学バークレー校のエマニュエル・サエズ教授によると、「金融危機以降、上位1%層の所得は31%増えたが、残る99%の所得の伸びは0.4%にとどまった」といいます。毎年の物価上昇率を考慮すると、残り99%は実質賃金がマイナス10%になってしまうほどなのです。
過剰な金融緩和と株主資本主義が結び付くと、このように恐ろしい社会が到来することになります。
イエレンFRB議長は直近の講演で、「上位5%の富裕層に富の6割以上が集中している」と警鐘を鳴らしていますが、私はこの点だけでもウォール街寄りだったバーナンキ前議長より評価しています。今後の彼女の金融政策の行方に期待したいところです。
翻って日本では、過剰な金融緩和策が中小企業や庶民の生活を苦しめています。円安の進行は輸入価格を押し上げますが、中小企業の多くはこのコストを販売価格に転嫁することができていません。
その結果として、利益が減少し、賃上げの原資が枯渇するばかりか、経営が苦しくなっているのです。中小企業の多くでは労働者は名目賃金さえも上がっていないのに、電気代やガソリン代、食糧費などが上がっていけば、庶民の生活は苦しくなるのが避けられないのは当然でしょう。
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