人間の戦争は動物を愛する人間に動物を殺させた あの時ヒョウは何も警戒せずキョトンとしていた

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戦争は死ななくてもいい命さえ奪ってしまう(写真:泡雪/PIXTA)
生き物たちはみな、最期のその時まで命を燃やして生きている──。
土の中から地上に出たものの羽化できなかったセミ、南極のブリザードのなか決死の想いで子に与える餌を求め歩くコウテイペンギンなど、生き物たちの奮闘と哀切を描いた『生き物の死にざま』の姉妹版『文庫 生き物の死にざま はかない命の物語』。同書から「剝製となった動物たちの悲しみ ヒョウ」の章を抜粋してお届けする。
前回:「最強」毒グモの母が迎える最期はどこまでも尊い(2月20日配信)

毎年8月に天王寺動物園に並べられる剥製

毎年、8月になると大阪の天王寺動物園では、たくさんの剝製(はくせい)が並べられた企画展が開催される。

ライオンの剝製もある。トラの剝製もある。シロクマの剝製もある。

並べられた剝製たちは、どこか悲しげに見える。なぜか、遠くを見ているように見える。

この企画展の名前は、「戦時中の動物園」である。そして、並べられた剝製たちは、すべて昭和の戦争中に人間の手によって殺された動物園の動物たちなのである。

日本で最初の動物園である上野動物園が開園したのは、明治15年(1882年)のことである。

次いで、明治36年(1903年)には京都市動物園、大正4年(1915年)には大阪の天王寺動物園が開園した。

明治時代以降に日本が近代化し、海外との交流が盛んになる中で、動物たちは交流の証しの親善大使として、日本に送られてきた。そして、子どもたちの人気者になっていったのである。

ところが、である。

あの忌(い)まわしい戦争が始まった。

戦争中の動物園の悲しい物語としては、上野動物園を舞台にした、児童文学作家、土家由岐雄(つちやゆきお)の童話「かわいそうなぞう」が有名だろう。

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