社会人にとって通常、実家は最終的な避難場所になるところだ。しかし、恩田さんにはそれがない。
しかし、だからといって、そんな運命を嘆いているかというと、それもまた違う。
「そういう意味では、クリエーティブ系の仕事に就けたのはよかったです。奨学金という借金を抱えていることはマイナスになりがちだと思うけど、それすら芸の肥やしというか。だから、今はもう『やるしかないぞ』という感じですよね。
奨学金を借りないと、今の仕事にはたどり着けなかったし、今も返す以外の選択肢はない。だからこそ、家庭のために進学を諦めようとしている人には、僕は『奨学金を借りないともったいない』と伝えたいんです」
奨学金制度に感謝も「さすがに厳しい」部分
恩田さんの話を聞いた筆者が思ったのは、「この人は本当にタフな人だな」ということだった。自分が置かれた状況を嘆かず、冷静に現実を見つめたうえで、具体的な行動を続ける。祖父母の家に避難した時も、自主映画を撮り続けた時も、副業を始めた時も、その態度は一貫していたと言えるだろう。
しかし、そのようにタフな彼でも、現在の奨学金制度には、一部改善してほしいところもあるようだ。
「奨学金の返済を3カ月ぐらい延滞すると、ブラックリスト入りになると聞いたことがあるんです。信用情報に傷がつくのは嫌なので、社会人1年目は会社の先輩にお金を借りて、延滞を免れたこともありました。奨学金を借りたことは感謝しているけど、さすがにここは厳しいんじゃないかと思うんです」
実際、日本学生支援機構のホームページを見ると「個人信用情報の取り扱いに関する同意書を提出していただいている方のうち、現在奨学金を返還されている方は、延滞3カ月以上の場合に個人信用情報機関に個人情報が登録されます」「個人信用情報機関に延滞者として登録されると、その情報を参照した金融機関等がその人を『経済的信用が低い』と判断することがあります。それによって、クレジットカードが発行されなかったり、利用が止められたりすることがあります。また、自動車ローン及び住宅ローン等の各種ローンが組めなくなる場合があります」といった記載がある。
さすがに、すべての人がすぐに個人情報を登録されるわけではないだろうし、同機構には返済猶予のシステムもあるため、返済が厳しい人はまず猶予を申し出るべきだろう。しかし、追い込まれた状況にいる人が、短期間でそのような手続きをするのが大変なのもまた事実ではないか。
これまでの奨学金報道の影響もあってか、本連載はどうしても「奨学金制度批判」が目的だと受け止められやすい。しかし、毎回導入で記しているように、そもそも制度の是非を単体で論じるのは困難であり、奨学金を借りて高等教育を受けたことによって人生を好転させた人も少なくない。「借りるリスク」があるのと同時に、「借りないリスク」も個人の人生という観点では存在しうるわけであり、だからこそ、奨学金返済当事者のさまざまな声を紹介している。
どうすれば、限られた財源の中で、若者を持続可能的に支援していけるのか? そのために、奨学金制度のどこを変えていくのがいいのか?
そういった建設的な議論が、本連載をきっかけに広がれば幸いである。
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