今年の「ノーベル経済学賞」を解説する:下 ティロール教授、授賞までの軌跡
2000年8月には、一橋大学経済研究所附属制度研究センターの設立の機会に来日し、コーポレート・ガバナンスに関するセミナーを行ってもらった。このときのティロール教授のコーポレート・ガバナンスに関する考え方は、制度研究センターの研究方針を決めるうえでも大きな影響をもった。そういったつながりもあり、一橋大学では2013年5月、ティロール教授の社会科学への広範な貢献と一橋大学研究者の研究に対する強い影響を認め、名誉博士号を授与している。
世界的研究者の指導
もうひとつ、われわれを結び付けている絆は、お互いの大学院での指導教授にある。ティロール教授の指導教授はエリック・マスキン教授であり、私の指導教授はアマルティア・セン教授である。この2人は、ケネス・アロー教授が創始した社会的選択論の研究者であり、2人は何度か、ハーバード大学で社会的選択論の講義を共同で行っていた。
ティロール教授も私も社会的選択理論の研究からは距離をおいて、われわれの比較優位のある分野で研究を行っている。しかし、アロー教授、セン教授、マスキン教授といった、歴代のノーベル経済学賞受賞者の中でも、質の高い科学論文を書く冷徹な頭脳と、社会の改善を願う暖かい心を持った最も良質な研究者たちを師として持てた幸運、そしてそれを次の世代に継承していく責任があるという点では、2人の考えは一致している。
このようにジャン・ティロール教授との20年以上の付き合いを通して、彼の研究者としての成功への道のりをつぶさに見てきた。彼は一流の研究者であり、よき教育者、よき家庭人でもある。彼のノーベル経済学賞の受賞を心から祝福したい。
唯一日本語に訳されているティロール教授の単著『国際金融危機の経済学』はこちら。
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