今年の「ノーベル経済学賞」を解説する:下

ティロール教授、授賞までの軌跡

私もティロール教授に招かれて参加した。プログラムもラフォン教授を記念した3つのセッションのほか、カンファレンス・パーティもラフォン教授の功績をたたえるものであった。総会の開会に先立って行われたレセプションでも、トゥールーズ市長はラフォン教授の功績をたたえつつ、それを立派に継承したティロール教授への称賛も惜しまなかった。

このように、ラフォン教授の功績を10年後も忘れることなくたたえるヨーロッパの経済学者たち、とりわけトゥールーズ第1大学の経済学者たちのラフォン教授への哀悼の意思表示は感動的であった。

経済学の研究・教育拠点を作り上げた

振り返ってみると、ラフォン教授がトゥールーズを経済学の世界的な研究拠点とするという志を持って、拠点の形成を1980年代半ばから始め、ティロール教授がその運動に賛同してトゥールーズに着任したのが1991年であった。その志半ばにして2004年にラフォン教授が57歳で亡くなったときには、エコノメトリック・ソサエティのメンバーに衝撃が走ったことを今でも覚えている。

その後、2007年にラフォン基金・トゥールーズ・スクール・オブ・エコノミックがフランス政府によって創設され、世界的に著名な多くの研究者が所属し、また、世界中から優秀な学生が集まる経済学の研究・教育拠点となったのである。

日本政府は大学に対して、センター・オブ・エクセレンス(COE)となるように予算をつけても、たかだか5~10年の期限つきで、その後は大学の自助努力に委ねられてきた。大半の日本の大学は世界基準の研究・教育拠点に変貌することなく現状に甘んじている実情を見るにつけ、トゥールーズでのラフォン教授とティロール教授の実行力とその成果には頭の下がる思いである。

「単独受賞」ではあるのだが……

今回のノーベル賞の発表に際して、スウェーデン王立アカデミーの経済学賞選考委員長であり、授賞理由の説明者であったストックホルム・スクール・オブ・エコノミックスのトール・エリクセン教授も、ラフォン教授とティロール教授の共同研究における業績が主要な授賞理由であることを強調していた。

今回のノーベル賞の受賞はティロール教授の単独受賞という形にはなっているが、実際には、これはラフォン教授との共同受賞という意味合いがある。この点についてはティロール教授が12月のノーベル賞受賞記念講演で述べることになるだろう。

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