だが、中国側はアメリカへの態度を硬化させてはいない。バイデン政権は中国との「競争(competition)」を掲げても、「衝突(conflict)」には至らせないとも述べているが、これは新型大国関係の「衝突せず」と重なるし、バイデン政権は、気候変動、地域問題、核兵器管理などの面での対中協力を模索している。これは中国から見れば好材料であり、2021年はむしろアメリカが中国に接近してきているように映ったであろう。
アメリカとの「新型大国関係」は、中国が2049年に「中華民族の偉大なる復興の夢」を成し遂げるうえでの前提だった。この試みが挫折したことは、国際公共財の提供やルール形成など世界での中国独自の秩序形成が今後もアメリカやその同盟国により牽制されることを意味する。
他方、大国間協調に困難を感じる中国はG77(77カ国グループ)などを利用しながら世界での「多数派」工作を行い、先進国を少数派としようとするだろう。それに対して、先進国は中国を直接牽制しつつ、新興国や発展途上国などから支持を得て世界で多数派を形成できるだろうか。これができれば、中国独自の秩序の形成を遅らせたり、形をある程度は返させることになろう。
G2論、新型大国関係と日本
米中2大国を中心とするG2論的な世界は、日本などの同盟国にとって望ましいものではない。また、台湾問題などの核心的利益の面でアメリカが中国を「尊重」する新型大国関係が形成されることも望ましくない。目下、FOIP(自由で開かれた太平洋)やQUADなど、多国間の軍事、経済などを含む複合的な地域秩序構想ができたことでG2的思考は後退し、新型大国関係もアメリカに拒否された。
しかし、核兵器をめぐるパリティなどの軍事安全保障面はもとより、経済や技術面でもG2的なダイナミズムは決してなくならないし、中国独自の秩序形成の試みも続くだろう。東アジアに位置する日本としては、多様な案件ごとに柔軟な姿勢をとりつつ、G2論的な世界、新型大国関係的な試みを牽制し、世界で多数派形成を行えるかがカギになろう。
(川島真/東京大学大学院総合文化研究科教授)
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