中国から見たアメリカとの「新型大国関係」と挫折 噛み合わない米中2大国の相互認識とタイミング

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習近平政権の新たな対外政策は、2016年7月、イギリスのチャタムハウスで行われた全人代外交委員長の傅瑩の演説にも明確に表れた。傅は、習近平の言葉として、アメリカを中心とする秩序の構成要素を、

① 国際連合とその下部組織、そして国際法
② アメリカを核とする安全保障ネットワーク
③ 西側の価値観

などとし、その中で中国は①しか受け入れられない、とした。この頃には習近平政権は、言葉のうえでも行動のうえでも、「挑戦」を明確にしていた、と言えるだろう。

このような中国の言動の変化に対して、オバマ政権は中国に厳しい姿勢をとろうとし、「航行の自由作戦」などを行ったものの、中国側の言動に大きな変化はなかった。アメリカの「関与政策」の最大の問題は、その政策に対する中国側の認識の検討が不十分だったことだろう。

トランプ大統領と中国の「誤算」

2017年秋、第19回党大会の演説において、習近平はアメリカへの「挑戦」を明確に示した。また、2018年の憲法改正で国家主席の任期を撤廃、中国の非民主化がより顕著になった。この前後、オバマ政権末期からトランプ政権成立の時期にかけて、アメリカは「関与政策」を転換した。数年前から明確化していた中国の「挑戦」をアメリカもようやく理解したと言えるが、中国側はアメリカの反応の遅さがなかなか理解できなかっただろう。アメリカから見れば、アメリカ側は、中国の「挑戦」はプロセスとして、時間をかけて次第に「認識」され、「政策」となっていったのだろう。

他方、アメリカの政策が変化しても、中国は新型大国関係を堅持しようとした。しかし、トランプ大統領が台湾問題や香港問題では中国に配慮する面もあったものの、2018年のペンス演説、その後の「米中対立」の展開により、トランプ政権がオバマ政権の認めていた新型大国関係を破壊したという見方が中国で広がった。

バイデン新大統領への期待と「挫折」

バイデン政権の成立は、新型大国関係を回復させる機会と中国には映った。習近平にとってバイデンは直接新型大国関係を説明した「老朋友(古い友人)」であった。しかし、その期待は裏切られた。その結果、習近平政権は、もはや対米関係で「新型大国関係」という表現を使わなくなった。

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