「いま何歳?」質問する人は思考停止している訳 「ライフシフト」で指摘「年齢に対する大誤解」
しかし、暦年齢、生物学的年齢、社会的年齢、主観的年齢の関係が変わるにつれて、老いるとはどういうことかも変わりはじめている。その変化は、老年学者たちが用いる用語にもあらわれている。
最近は、60~69歳を初老者(ヤング・オールド)、70~79歳を高齢者(オールド・オールド)、80歳以上を超高齢者(オールデスト・オールド)と呼ぶ動きがあるのだ。
しかし、老いるとはどういうことかを深く理解しようと思えば、もうひとつの尺度を採用する必要がある。その尺度とは、死生学的年齢とでも呼ぶべきものだ。生まれてから現在までの年数ではなく、現在から死亡するまでに残されている年数のことである。
もっとも、死生学的年齢を正確に算出することは難しい。幸いと言うべきだろうが、自分がいつ死ぬかはわからないからだ。そのため、人口統計と死亡率(特定の年齢の人が死亡する確率)を基に、おおよその推測をすることしかできない。
人生のどの時点においても、その年齢での死亡率が低いほど、その後に残されていると期待できる年数は長い。要するに、死亡率と死生学的年齢は逆相関の関係にあると言える。
また、死亡率は、人の健康状態を映し出す指標として暦年齢より優れている。ある社会の死亡率が低ければ、その社会で生きる人の健康状態が良好で、残されている年数も長いとみなせる。ある意味では、そのような状態こそ「若い」と呼ぶべきなのかもしれない。
「かつてなく若い」イギリス
この点について、イギリスの例を見てみよう。1950年以降のイギリスの平均年齢(平均暦年齢)と、死亡率(人口1000人当たりの死者数)の推移を見たとき、暦年齢を基準に考えれば、いまイギリス社会は過去になく老いている。
ほかの条件がすべて同じなら、社会の平均暦年齢が上昇すれば死亡率も高まる。高齢者ほど死ぬ確率が高いからだ。ところが、実際の死亡率は逆に下落している。今日のイギリス人は、平均してかつてなく高齢になっているが、いまほど、残されている人生が長い時代はなかった。
暦年齢だけ見れば、イギリスが高齢化社会であることは明らかだ。しかし、死生学的年齢に着目すれば、いまのイギリスはいまだかつてなく若い社会になっているのである。
このような現象を生んでいる要因が年齢の可変性だ。単に人々が長生きするようになっただけでなく、老い方が変わりはじめているのだ。