「いま何歳?」質問する人は思考停止している訳 「ライフシフト」で指摘「年齢に対する大誤解」

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生物学的な面でよりよい老い方ができるようになれば、人々の健康状態が良好になり、年齢ごとの死亡率も下がる。この点は、50歳超のアメリカ人2万1500人を対象にした研究からも明らかだ。

その研究によれば、1988年から2010年の間に、アメリカ人の生物学的年齢(さまざまな身体面の指標から算出)の対暦年齢比は低下している。

暦年齢だけに着目することの弊害は、それが名目ベースの指標にすぎず、本当に重要な要素を考慮に入れられない点にある。具体的には、健康状態や行動習慣などが反映されない。ある暦年齢の人の健康状態や行動習慣が全員同じなら、それでも問題はないだろう。

しかし、年齢に可変性があるとすれば、このような名目ベースの指標を用いることは正確性を欠く。

今日の78歳と1922年の65歳が同水準

この種の問題は、インフレ(物価上昇)をめぐる経済学界の議論ではおなじみのものだ。1952年のアメリカでは、1パイント(約0.5リットル)のビールの価格は0.65ドルだった。2016年にはそれが3.99ドルになっている。

これだけ見ると、ビールの価格が上昇したことは明白だと思えるかもしれない。しかし、物価上昇率を考慮に入れると、1952年の0.65ドルは2016年の5.93ドルに相当する。つまり、実質ベースでは、ビールは1952年当時より値下がりしているのだ。

同じように、「年齢のインフレ」も考慮する必要がある。物価のインフレが進むと、1ドルで購入できるものが年々減っていくように、年齢のインフレが進むと、暦年齢が1年増えることにより進行する老化の度合いが小さくなるのだ。

この点は、「老いるとはどういうことか」という点に関して非常に大きな意味をもつ。イギリスでは1925年、65歳以上の人が公的年金を受給できるものとされた。しかし、年齢ごとの死亡率では、今日の78歳と1922年の65歳が同水準だ。

年齢のインフレを計算に入れるなら、78歳以上を「高齢者」の基準にすべきなのかもしれない。

「高齢化社会」の到来に警鐘を鳴らす主張は、暦年齢だけに着目し、高齢者の数が増えている点ばかりを強調する。こうした考え方は、年齢のインフレを考慮していないため、人々の老い方が大きく変わりつつあり、長寿化が個人と社会に多くの機会をもたらし、新たな問題解決策をも生み出しているという事実を無視しているのだ。

アンドリュー・スコット ロンドン・ビジネス・スクール経済学教授

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Andrew Scott

ロンドン・ビジネス・スクール経済学教授、スタンフォード大学ロンジェビティ(長寿)センター・コンサルティング・スカラー。ロンジェビティ・フォーラム共同設立者であり、英国予算責任局のアドバイザリーボードと英国内閣府の栄誉委員会メンバーも務める。邦訳された著書に『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』がある。

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リンダ・グラットン ロンドン・ビジネス・スクール経営学教授

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Lynda Gratton

ロンドン・ビジネス・スクール経営学教授。世界をリードする「働き方の未来」の専門家。全世界で最も権威ある経営思想家ランキングである「Thinkers50」では、トップ15にランクインしており、2018年には安倍晋三元首相から「人生100年時代構想会議」のメンバーに任命された。著作である『ワーク・シフト』『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』シリーズ(アンドリュー・スコットとの共著)は日本で大ベストセラーに。長寿社会におけるキャリア構築の考え方――「人生100年時代」というキーワードをつくり出した中心人物である。

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