夜の街で働く女性襲う「個人事業主扱い」横行の罠 コロナ禍でも働き続けないといけない理由とは?

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小木和代(仮名、30歳)は、そんなあいまいな扱いに疑問を抱いた一人だ。「OWLs」の支援で勤め先の埼玉県のキャバクラ店を訴え、今年7月、勝利的和解を勝ち取った。

2019年の退職時、小木は、未払い残業代や、トイレットペーパーなどの費用として天引きされてきた「厚生費」などの返還を求めた。

会社は「個人事業主」として業務委託契約しただけだから残業代は発生しない、などとして拒否を続けた。だが、裁判で労働時間を管理していることなどから「労働者」としての側面が強いとされ、残業代、厚生費のほか、客が来ない日に早帰りさせた分の時給について未払い賃金として返還することで、和解になった。

小木が疑問を抱いた「個人事業主」扱いは、コロナ禍でむき出しの不利益に転化した。最初の緊急事態宣言で収入はゼロになったが、店は、「個人事業主だから」と休業手当を申請してくれない。小木は、深夜もこっそり開けている店を捜して働いた。

ここでは、なじみの顧客から電話があるときだけ開く形をとっていた。顧客がついていなければ客が来ない。そのため、新規入職の女性は退職に追い込まれていった。小木は自分の顧客を呼んで、しのいだが、これで感染が防げるのか、と思った。

脆弱雇用であればあるほど公的保護が届きにくい

OWLsの組合員の中には、「雇用保険に入れば週20時間以上働ける」と言われて保険に加入し、これに基づいて、店が休業給付金を申請した例もある。だが、毎月の給料明細書の総収入の欄には32万円とあるのに、手渡されたのは月10万円程度だった。

助成金の詐取ではないのかと、田中らは労使交渉に入った。会社は「従業員を助けるために雇用に切り替えた」「手渡された分との差額は社会保険労務士への手数料」と説明した。労働基準監督署に交渉の模様の録音を持ち込み、指導を求めたが、「会社の言い分を覆す証拠の確保は難しい」と言われ、その後事件終了の事務手続きをしたと通告された。

日本の労働基準監督官は労働者1万人あたり0.62人と、アメリカを除く主要先進国では最も少ない。このため、キャバクラのような経営内容がつかみにくい業界にまで手が回りにくいとの見方もある。

コロナ禍で打撃を受けた女性への処方箋として「転職支援」が語られることも多いが、転職先も介護業界など低賃金で不安定であるがゆえに人手不足になっている業界が少なくない。高技術の仕事への転職は、よほど本腰を入れた公的職業訓練制度ができない限り、脆弱雇用の女性にはハードルが高い。

脆弱雇用であればあるほど公的保護が届きにくい、という矛盾した構造が、シフト労働の女性たちにも共通する「支援を受けられるはずがない」という疎外感を生み、とりあえずの労働へと女性を追いやる。「もうひとつの雇用回復」はキャバクラ女性だけの問題ではない。

(文中敬称略)

前回記事:コロナ禍で隠された「女性の貧困」苦しすぎる実態

竹信 三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授

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たけのぶ みえこ / Mieko Takenobu

東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授・ジャーナリスト。2019年4月から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント~生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。

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