「銭湯好きじゃない男」が継いだ銭湯の意外な展開 松本「菊の湯」から事業継承に悩む人が学べる事

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この成功にはいくつかの要因がある。大きいのは事業を渡す側の問題だ。たいていはいずれ誰かに継承をと考えながらもなかなか動けず、体力、判断力が落ちてから慌てて動こうとするが、宮坂さんは50代。まだまだ動けるうちに決断しており、周囲からの反対もなかった。

一度廃業してからの継承は難しいが、営業しているうちの相談であればスムーズに引き継げる。将来の継承を考えているなら、早めに動いたほうがいいわけだ。

クラウドファンディングで支援した人たちの広告が浴室や、脱衣所などに掲げられている(筆者撮影)

コーヒーと銭湯の「共通点」

また、宮坂さんが、菊地さんが銭湯に感じた価値や将来を理解し、それを寛容に認めることができたという点も大きい。

その価値とは1杯のコーヒーが人をリセットするように、銭湯もまた人をリセットする場であり、「日常からはぐれることができる空間」であるということ。菊地さんはブックカフェや銭湯にサードプレイスとして共通するものを見ており、どんな人も裸でフラットになれる銭湯のほうがより多様性があり、地域に必要なものと考えている。

菊の湯に置かれているお客様ノートの落書き。「菊の湯はのびたくん。」言いえて妙だ(筆者撮影)

だから継承に手を挙げたわけだが、菊地さんが見ている価値を理解できない前世代もおり、その人たちには菊地さんに見えている将来も見えない。それが「銭湯には未来がない」「廃業だ」という判断につながる。だが、そう判断を急ぐ前に、「他人に託すという選択肢があることを知ってもらえれば」と菊地さんは言う。

地方にはこの1軒がなくなったら「銭湯ゼロ」になるという地域が多く存在しており、地域における銭湯の役割は大きい。菊の湯の成功を伝えることで廃業しようとする経営者の心変わりを促せたら。菊地さんの願いが広く伝わることを祈りたい。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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