無数の離婚を見てきた私が悟った「距離の置き方」 慰謝料1億円で別れたって心の平和は訪れない

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有責配偶者は相手方の同意がなければ離婚することができません。結局、夫の新しい恋人は一向に進まない離婚に「もう待てない」と夫のもとを去り、夫は「もう慰謝料は払わない」と言い出して話し合いは頓挫。妻はというと、裏切った夫と縁を戻したかったのではなく懲らしめたかっただけ。怒りが収まってきた頃には、慰謝料ももらえず、離婚もできず、宙ぶらりんの状態になり、新たな人生をはじめるチャンスを棒に振ってしまったのです。

離婚は、相手を成敗しようとする心と復讐心を押さえて、スマートに負けるが勝ち。

私はこの経験から、「それによって私は幸せになれるかな」と、自分に問いかけることをすすめるようになりました。もちろん、弁護士に相談することで、怒りのスイッチをオフにできることだってあります。

裁判で相手を叩きのめすより和解が勝ち!?

離婚は、勝ち負けやプライド、お金に執着すると、結果的に人生をより深い苦しみに自ら落としてしまうことがあります。また、すべての人間関係も同じようにいえます。

法律を武器に互いの非を公にし、自分の正義と正しさを相手に認めさせて慰謝料を要求し、最終的に「勝った」状態にしたい。

人間ですから、そういう風に自分を守ろうとする気持ちもわからなくはありませんが、人間が負の感情に取り憑かれてしまったときのお顔というのは、能の般若の面そのものだったりします。能面の顔を見るたびに、私は相談者にこう問いかけ続けました。

「あなたにとって裁判に勝つってどういうことかしら? 私はあなたが幸せになるためのお手伝いならしますが、あなたを苦しめた人を懲らしめるお手伝いはしませんよ」

そして実際に、相手方にも敬意を払い、できることなら裁判まで持ち越さずに互いの納得のいくところで幕を引くことを大事にしていました。争いごとというのは、人の心を疲弊させ、壊していくから、出来る限り短い方がいいのです。

実際、正しさで相手を打ち負かしたところで心の平和は訪れないと知ってほしかった。結局、誰かを裁くとき、残るのは虚しさです。「弁護士なのに裁判を勧めないの?」と言われたとしたら、今でも私は、「弁護士の仕事は人間関係と心のもつれを解くことです」と答えます。

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