政権発足100日超、見えてきた「岸田流」強さと限界 安倍氏、菅氏より「まとも」の評価も進まぬ改革

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第3に外交で政権浮揚ができない点である。岸田首相は昨年末からアメリカを訪問してバイデン大統領との首脳会談の機会を探ってきた。しかし、バイデン大統領は国内の議会対策などに忙殺され、対面の首脳会談の時間が取れずに、1月21日にオンラインでの首脳会談にやっとこぎつけた。

岸田首相としては、バイデン大統領との信頼関係をアピールし、国内の求心力を強めたいところだが、思いどおりにはなっていない。逆に、沖縄県や山口県にあるアメリカ軍基地からコロナ感染が広がった疑いが強まり、アメリカ兵に対する検疫や検査の甘さが批判され、岸田政権の対米姿勢が問題視されている。

通常国会の予算委員会などで、野党はコロナ対策や経済政策の「各論」を追及する構え。岸田首相が説得力のある答弁ができるかが勝負どころだ。

そして、ここにきて目立つようになってきたのが自民党内の動きだ。安倍元首相は、幹事長人事で高市早苗氏を推したが、岸田首相は受け入れずに茂木敏充氏を起用したことや、山口県内で長年のライバルである林芳正氏を外相に抜擢したことなどに不満を募らせているという。安倍氏は対中国外交で強硬姿勢を訴えるなど、岸田外交に注文をつけ続けるだろう。

安倍氏は、森友学園をめぐる公文書改ざん問題や桜を見る会での公私混同問題など火種を抱えている。岸田首相が一連の疑惑解明に消極姿勢を続ければ、国民の不満が広がる半面、解明に積極的に乗り出せば安倍氏の怒りを買う。そういうジレンマに陥るのである。

一方、菅前首相は、もともと岸田氏の政治手腕に疑問を持っていた。ポスト安倍を争う自民党総裁選に官房長官だった菅氏が手を挙げたのも、先に立候補を表明した岸田氏や石破茂元幹事長では「まともなコロナ対策ができない」と判断したためだ。菅氏の後継を争う総裁選で、菅氏が河野太郎氏を支持したのも、「岸田氏では改革が進まない」と考えたからだ。

菅氏は、岸田政権でワクチン接種が出遅れていることや感染症法の改正を先送りしたことなどについて批判を強めている。菅氏が河野氏や二階俊博前幹事長らと連携して、岸田政権の揺さぶりに動く可能性もある。

今夏の参院選まで懸案処理は先送り?

日本の現状を大局的に見れば、コロナ禍によって、日本の医療体制の不備やデジタル化の遅れなどが露呈した。安倍政権は感染の拡大と経済の落ち込みに動転し、菅政権はワクチン接種の加速やデジタル庁の新設などを進めたが、コロナ感染の拡大に十分対応できる体制にはほど遠い。

岸田政権は安倍・菅政権を検証したうえで、抜本的な制度改革を推し進める必要がある。だが、「聞く力」は評価されているものの、改革に向けた「決める力」は発揮されていない。

岸田首相にしてみれば、今夏の参院選までは懸案処理を先送りし、参院選を自民・公明の与党勝利で乗り切ることが最優先だろう。そのあとは、衆院議員の任期満了が2025年秋で、参院選の改選が2025年夏なので、衆院の解散をしなければ、3年間は全国一斉の国政選挙がない状況ができる。「黄金の3年間」ともいうべきこの間に、さまざまな懸案を解決したいというのが岸田首相の本音だ。

しかし、世界標準から立ち遅れた日本の諸制度を改革するのは待ったなしであり、まさに時間との勝負である。懸案は参院選後という先送りの姿勢では、政権に対する国民の共感は広がらないだろう。

星 浩 政治ジャーナリスト

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ほし ひろし / Hiroshi Hoshi

1955年生まれ。東京大学教養学部卒業。朝日新聞社入社。ワシントン特派員、政治部デスクを経て政治担当編集委員、東京大学特任教授、朝日新聞オピニオン編集長・論説主幹代理。2013年4月から朝日新聞特別編集委員。2016年3月からフリー。同年3月28日からTBS系の報道番組「NEWS23」のメインキャスター・コメンテーターを務める。著書多数。『官房長官 側近の政治学』(朝日選書、2014年)、『絶対に知っておくべき日本と日本人の10大問題』(三笠書房、2011年)、『安倍政権の日本』(朝日新書、2006年)など。

 

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