学習障害だった彼女が26歳以降に得た人間の底力 「脳は生涯変化する」身をもって証明してみせた

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そこで彼女は自分を実験対象にし、起こってくる変化を観察することにした。

最初にやったことは、デジタル時計とアナログ時計をいくつも買い集めることだった。それを両手にはめて時計を読む練習をはじめた。まずアナログ時計が示す時間を読み、つぎにデジタル時計を見て正しいかどうかを確かめる。さらにフラッシュ・カードに時計の文字盤を描いたものでも練習した。(中略)
まともな研究者なら最初から問題にしなかったかもしれない。時計の文字盤を読むくらいで脳が変化するなら世話はないというわけだ。しかしバーバラは真剣だった。とりあえずほかに思いつくやり方もなかった。つづけて何時間も練習し、長いときは12時間にも及んだ。それを何日も繰り返した。(65〜66ページより)

26歳だった彼女は、時計の文字盤を読めるようになりたいという一心でそれを続けた。すると何週間か経ったころ、脳がゆっくりと変わりはじめた。読み返さなくても、一度で理解できるようになり、数学の概念も少しずつわかるようになってきたのだ。他人との会話にもついていけるようになり、友達や同僚の話も理解できるようになった。物心ついたときから“そういうこと”ができなかった彼女にとって、それは大きな出来事だった。

つまり、あたかも虚弱体質が強靭な体質に変わるかのように、彼女の脳は変わったのである。彼女は自分を実験台にした地道な練習を通じ、それを立証してみせたのだった。

自身の体験から彼女は以下のことを確信していた。
① 脳は変化する。
② その変化は植物が地下に根を張るようにして起こる。
③ 脳のポテンシャルはほとんど無限である。
(88ページより)

「遅すぎる」ということはない

フラッシュ・カードに時計の文字盤を描いたもので、ひたすら時刻を読む練習をする――。バーバラが実践した手法はきわめてシンプルだ。しかし、そこから起きた変化は、数学の概念や論理の理解のほか、哲学書を読んで理解できるというような結果につながっていった。

数学や哲学が「わかる」ということを妨げている脳の領域に直接アプローチし、その機能を向上させることに成功したのだ。このエクササイズはのちに「アロースミス・プログラム」という知能訓練法として広く認知されることになる。

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