アメリカ株は「懸念すべき投資先」になりつつある 今年は短期的にマイナス成長の懸念も出てきた

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財政政策が家計所得を減らす中で、オミクロン株の流行がもたらすアメリカ経済への悪影響は、2021年とは異なり顕在化するとみられる。2022年1~3月期のGDP成長率は前期比年率+1%前後に急減速する、と筆者は現時点で予想している。さらに、オミクロン変異株の感染が、中国製ワクチンに頼っている新興国に広がる過程で、昨年起きたグローバルサプライチェーンの混乱が再び起きて製造業の生産活動が滞れば、アメリカ経済が短期的にマイナス成長まで下振れる可能性が出てくるだろう。

経済が減速しても、FRB(連邦準備制度理事会)による金融緩和政策によって下振れリスクが緩和するのであれば、株式市場にとって問題は大きくならないだろう。だが、インフレ沈静化を最重視するFRBの政策姿勢はかなり強まっている。すでに、3月FOMC(連邦公開市場委員会)での利上げ開始について、ジェローム・パウエル議長を含めたハト派メンバーのほとんどが利上げ開始に賛同しており、その後は継続的に利上げを行う方向にメンバーの意見が集約されつつある。

さらに、昨年12月のFOMCにおいて、量的引き締め政策(バランスシート縮小政策)についても踏み込んだ議論が行われていることが判明した。この政策ツールについては、メンバーの意見はまだ差があるとみられるが、パウエル議長は数回の会合を経て、量的引き締め政策を始める考えに言及した。確実にインフレを鎮めるために、政策金利引き上げに加えて量的引き締め政策を早期に実現する方向に、FOMCメンバーの議論が向かうとみられる。

インフレ沈静化最重視でFRBは経済成長抑制を容認へ

2017年10月からの前回のバランスシート縮小政策はかなり慎重に行われた。だが、今後はインフレ沈静化のツールとして同政策が利用されるので、前回の引き締め時よりも早いペースでの量的引き締め政策が実現する可能性が高い。これまでの、FRBの引き締め政策転換があっても、依然として上昇が限定的なままのアメリカの長期金利には、大きく上昇する余地がある、と筆者は考えている。

FRBがインフレと経済成長のバランスをとって金融政策を行うのだから、今後の引き締め政策によってインフレと経済が安定成長に戻るファインチューニングに成功する可能性はある。

ただ、今起きているインフレ上昇は、世界的なサプライチェーン混乱などの供給側の要因によって起きている側面が大きい。2021年に起きた供給側に起因するインフレ上昇に対して、総需要に影響を及ぼす金融政策による「程よい引き締め」は実現し難いだろう。

FRBによる引き締めは、インフレ抑制と同時に経済成長を抑制する方向に作用する可能性が高い。このため、経済成長の下振れのコストを容認しながら、インフレ沈静化を最重視するFRBの政策姿勢は、簡単には変わらないと思われる。

アメリカの株式市場における当面の注目は、昨年10~12月期の企業業績発表だ。同期までは底堅い経済成長が続いたので、企業決算はさほど悪くない。この材料で、短期的には決算を受け株価はいったん上昇するかもしれない。だが過去の業績を確認する意味合いが大きい企業決算や、過去の経済状況が影響する企業の売り上げ見通しは、同国株市場の持続的な上昇要因にならないだろう。

2022年の経済成長率低下と企業業績減速が始まり、コロナ感染拡大がインフレ要因となるなかでFRBの引き締め政策が強まっている。このため、企業業績が峠を越えるシナリオが早晩織り込まれるのではないか。「アメリカ株市場は期待できない」というよりも、当面は「懸念すべき投資先に変わりつつある」と筆者は一段と慎重になっている。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

村上 尚己 エコノミスト

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むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

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